1. リスキリングとは?今、求められる新たなスキル獲得の重要性
リスキリングは、現代の急速な技術革新と社会構造の変化に対応するために不可欠な取り組みです。企業と個人の双方が、この変化の波を乗りこなし、持続的な成長を遂げるための鍵となります。
1.1. リスキリングの定義と現代における必要性
リスキリングとは、単に新しい知識や技能を学ぶ「スキルアップ」とは異なり、現在とは異なる職務や、変化する現在の職務に対応するために、新たなスキルを獲得すること、あるいは既存のスキルを大幅に向上させることを指します。特に、DXの進展、AI技術の進化、そしてグローバル化の加速といった現代社会の大きな変化は、従来の業務プロセスや求められる能力を根本から変えつつあります。このような背景から、企業が競争力を維持し、個人が市場価値を高めるためには、リスキリングによる戦略的な能力再開発が不可欠となっています。
この必要性は、経済産業省がDXにより失われる雇用を新たな雇用へと円滑に労働移動させる目的で、企業における従業員へのリスキリング推進を奨励していることからも明らかです。変化に対応し、新しい価値を創造できる人材を育成することが、今後の社会経済において極めて重要であると言えるでしょう。
1.2. 企業がリスキリングに取り組むメリット
企業が積極的にリスキリングに取り組むことは、多くの経営上のメリットをもたらします。
- 生産性の向上: 従業員のスキルセットが向上することで、業務効率が上がります。
- 競争力の強化: 新たな技術や知識を習得した人材は、新規事業展開を推進する原動力となります。
- 従業員エンゲージメントの向上: 学習意欲を高め、キャリア成長を支援する姿勢は、優秀な人材の確保や定着率の改善にも貢献します。
1.3. 個人がリスキリングに取り組むメリット
個人にとっても、リスキリングはキャリアを豊かにし、市場価値を高めるための重要な手段です。新しいスキルを習得することで、より専門性の高い職務へのキャリアアップや、成長分野への転職といった新たな可能性が広がります。変化への適応能力を高め、雇用の安定性を確保することに繋がります。
2. 【企業向け】リスキリングに活用できる主要助成金制度:完全ガイド
企業がリスキリングを推進する上で、経済的な負担は大きな課題の一つです。国や地方自治体は、企業の積極的な人材育成を支援するために様々な助成金制度を設けています。
2.1. 最重要!人材開発支援助成金:概要と活用戦略
企業向けのリスキリング関連助成金の中で、最も中心的かつ広範な支援を提供するのが、厚生労働省が管轄する「人材開発支援助成金」です。この制度は、事業主等が雇用する労働者に対して、職務に関連した専門的な知識及び技能を習得させるための職業訓練等を計画に沿って実施した場合等に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成することを目的としています。
2.2. 人材開発支援助成金:主要コース別徹底解説
2.2.1. 事業展開等リスキリング支援コース
新規事業の立ち上げ、DX、GXといった大きな事業展開を行う際に、それに伴って必要となる新たな知識や技能を従業員に習得させるための訓練を支援するものです。令和4年度から令和8年度までの期間限定コースとして創設されています。
- 対象訓練: DX関連スキル(生成AI、SNSマーケティング等)、GX関連技術の習得など、10時間以上のOFF-JT。
- 助成内容(中小企業): 経費助成率75%、賃金助成額は1人1時間あたり960円。
2.2.2. 人への投資促進コース
デジタル人材や高度専門人材の育成、労働者の自発的な能力開発を幅広く支援することを目的としたコースです。多様な学びのスタイルに対応した訓練メニューが特徴です。
- 訓練メニュー例: 高度デジタル人材訓練、定額制訓練(サブスクリプション型)、自発的職業能力開発訓練など。
- 助成内容例(高度デジタル人材訓練・中小企業): 経費の75%、賃金助成として1人1時間あたり960円。
- 注意点: 定額制訓練は2024年10月改正の内容を要確認。
2.3. 人材開発支援助成金:共通の対象要件
助成金を受給するためには、事業主、労働者、訓練内容、経費に関して、いくつかの共通の要件を満たす必要があります。
- 事業主の要件: 雇用保険の適用事業所であること、「事業内職業能力開発計画」を作成・周知し、「職業能力開発推進者」を選任していること、訓練経費を全額負担していること等。
- 労働者の要件: 雇用保険の被保険者であること、原則として訓練時間数の8割以上を受講していること等。
- 対象外の訓練: 職務に直接関連しない内容、趣味・教養目的のもの、通常の事業活動として遂行されるもの等。
特に、訓練機関からのキャッシュバック等により実質的な負担がない場合は不正受給とみなされる可能性があるため、厳重な注意が必要です。
2.4. 人材開発支援助成金:申請から受給までの流れと必要書類
- 【計画】訓練計画の作成と計画届の提出: 訓練開始日の1ヶ月前までに管轄の労働局へ提出。
- 【実施】訓練の実施: 提出した計画に沿って訓練を実施。
- 【申請】支給申請書の提出: 訓練終了日の翌日から2ヶ月以内に管轄労働局へ提出。
- 【受給】審査と助成金の受給: 審査後、指定口座に助成金が振り込まれます。(後払い)
令和7年4月1日より、審査は支給申請時に一括して行われることになり、計画段階での適正な運営と証拠書類の保管がより重要になりました。
2.6. 【東京都限定】DXリスキリング助成金(中小企業向け)
東京都が独自に実施している、都内の中小企業等のDX推進を支援する助成金です。
- 対象研修: 3時間以上10時間未満のDX関連研修(レディメイドまたはオーダーメイド)。
- 助成額: 経費の4分の3を助成(1人1研修あたり上限75,000円、1社年間上限100万円)。
- 注意点: 国の助成金との重複受給は不可。
【参考資料】助成金比較表
表1:人材開発支援助成金 主要リスキリング関連コース比較表
コース名 | 主な対象訓練 | 経費助成率(中小企業) | 賃金助成額(中小企業, 1人1時間) | 1事業所あたり年間助成限度額 |
---|---|---|---|---|
事業展開等リスキリング支援コース | 新規事業展開、DX・GX化に伴う専門知識・技能習得訓練(10時間以上のOFF-JT) | 75% | 960円 | 1億円 |
人への投資促進コース | 高度デジタル人材訓練、成長分野等人材訓練、定額制訓練、自発的職業能力開発訓練等 | 訓練により異なる (例:75%) | 訓練により異なる (例:960円) | 2,500万円 |
人材育成支援コース | 職務関連知識・技能習得訓練(OFF-JT)、認定実習併用職業訓練、有期実習型訓練 | 訓練・対象者により変動 | 訓練・対象者により変動 (例:800円) | 1,000万円 |
※助成率・助成額は代表的な例であり、詳細は必ず厚生労働省の最新情報を確認してください。
表2:企業向けリスキリング助成金 申請プロセス概要
ステップ | 主な活動 | 提出書類例 | 期限・注意点 |
---|---|---|---|
計画段階 | 訓練計画の策定、各種計画の作成・周知 | 事業内職業能力開発計画など | 訓練内容、対象者、期間、費用等を具体的に計画 |
申請段階 | 「職業訓練実施計画届」の提出 | 職業訓練実施計画届、年間職業能力開発計画など | 訓練開始日の1ヶ月前までに管轄労働局へ提出 |
訓練実施 | 計画に基づき訓練を実施 | 出席簿、OJT訓練日誌など | 計画通りに実施。変更時は変更届を提出。 |
支給申請 | 「支給申請書」の提出 | 支給申請書、経費の領収書、賃金台帳など | 訓練終了日の翌日から2ヶ月以内。審査はこの段階で一括実施。 |
受給 | 審査後、助成金の支給決定・振込 | 支給決定通知書 | 助成金は後払い。 |
※必要書類や手続きの詳細は必ず厚生労働省の最新情報を確認してください。
3. 【個人向け】リスキリングに活用できる主要給付金・支援制度
個人が主体的にリスキリングに取り組む際にも、国や地方自治体による様々な支援制度が用意されています。
3.1. 教育訓練給付制度:キャリアアップを国が支援
働く方々の主体的な能力開発やキャリア形成を支援し、厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了した際に、受講費用の一部が支給される制度です。主に雇用保険の被保険者が対象です。
- 専門実践教育訓練: MBA、専門学校、AI・データサイエンス講座等、中長期的なキャリア形成に資する訓練。受講費用の最大70%(年間上限56万円)を給付。
- 特定一般教育訓練: IT資格、大型免許、士業資格等、速やかな再就職・早期キャリア形成に資する訓練。受講費用の40%(上限20万円)。※2024年10月以降50%に引き上げ予定。
- 一般教育訓練: 簿記、TOEIC等、雇用の安定・就職促進に役立つ訓練。受講費用の20%(上限10万円)。
3.2. リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業
経済産業省が管轄し、在職者がキャリア相談、リスキリング、転職支援までを一体的に受けられる事業です。民間の採択事業者を通じてサービスを受けます。
- 支援内容: リスキリング講座の受講費用について、修了時に費用の1/2(上限40万円)を補助。さらに転職後1年継続就業で追加補助あり。※2025年4月以降補助率変更予定。
4. リスキリング助成金・給付金 活用のポイントと注意点
4.1. 自社・自分に最適な制度の選び方
まずリスキリングの目的を明確にすることが重要です。次に、企業規模や雇用形態、個人の就業状況などの対象者条件を確認し、実施したい訓練内容と制度がマッチするかを検討します。
4.2. 申請準備の進め方と成功のコツ
情報収集の徹底、書類準備の早期着手、計画性の確保が成功の鍵です。特に、申請から受給までは数ヶ月かかり、経費は一時的に自己負担となるため、資金繰りも考慮した計画が求められます。
4.3. よくある質問(FAQ)
- Q. 助成金はいつもらえますか?
A. 原則として全て「後払い」です。訓練修了後に申請し、審査を経て振り込まれます。 - Q. 「実質無料」を謳う研修サービスは大丈夫ですか?
A. 不正受給とみなされる可能性が非常に高いです。事業主が訓練経費を全額負担していることが大前提であり、発覚した場合は返金や加算金、氏名公表などの厳しいペナルティが科せられます。 - Q. 申請前に訓練を開始してしまっても対象になりますか?
A. 原則として対象外です。多くの助成金は、訓練開始前に計画届などを提出する必要があります。
4.4. 専門家(社労士等)活用の検討
制度が複雑で頻繁に改正されるため、社会保険労務士(社労士)などの専門家に相談・依頼することも有効な選択肢です。申請の不備による不支給リスクを軽減し、本来の業務や学習に集中できます。厚生労働省の助成金申請代行は社労士の独占業務です。
助成金を戦略的に活用し、未来を拓く
リスキリングと助成金の活用は、企業の持続的成長と個人のキャリア形成を実現するための鍵となります。
しかし、制度は複雑で、手続きには手間がかかります。
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