はじめに:なぜ、会計事務所のDXは「部分的」で終わってしまうのか?
「顧問先の管理はExcelや年賀状ソフトで行っている」
「請求書は販売管理ソフトで毎月手動作成し、契約内容との突き合わせに半日かかっている」
「税務申告の進捗はホワイトボードか、担当者個人のメモ帳の中にしかない」
現在、多くの会計事務所・税理士事務所が、このような「情報の分断」に悩まされています。
クラウド会計ソフトの普及により、記帳代行などの「製造業務」は劇的に効率化されました。しかし、事務所運営の根幹である「顧客管理(CRM)」「契約管理」「請求管理」「申告進捗管理」といった「管理業務」においては、未だにアナログな手法や、互いに連携していない複数のツールを使い分けているのが実情ではないでしょうか。
その結果、何が起きているか。
- 担当者が退職すると、顧問先との過去のやり取りや特殊な事情がブラックボックス化する。
- 契約変更(報酬改定)があったのに請求額に反映されず、誤請求が発生する。
- 電子申告の送信漏れや、期限ギリギリの着手といったヒヤリハットが常態化する。
これらの課題を一挙に解決する手段として、近年注目されているのがサイボウズ社の業務アプリ開発プラットフォーム「kintone(キントーン)」です。しかし、kintoneは「自由になんでも作れる」がゆえに、「どう作れば会計事務所の業務にフィットするのか分からない」という壁に突き当たります。
そこで今回ご紹介するのが、現役の実力派税理士法人が監修・設計し、数多くのkintone構築を手掛けるはてなベース株式会社と共同開発した、「士業向けkintoneパッケージ」です。
事務所の「OS」を入れ替え、真のDXを実現するための青写真としてご活用ください。
第1章:開発背景とコンセプト ~実務知見×技術力~
1-1. 一般的なCRMでは「会計事務所」の業務は回らない
世の中にはSalesforceやHubSpotなど、優れたCRM(顧客管理システム)が多数存在します。しかし、それらを会計事務所に導入しようとすると、必ず「違和感」が生じます。
なぜなら、会計事務所の業務は特殊だからです。
- 「決算月」と「申告月」のズレ管理。
- 「本店所在地」と「納税地」と「送付先」の使い分け。
- 「法人税」「消費税」「源泉所得税」など、税目ごとの細かい進捗管理。
- 毎月の顧問料に加え、「決算料」「年末調整」「償却資産申告」などのスポット請求の混在。
これらを汎用的なツールで管理しようとすると、莫大なカスタマイズ費用がかかるか、運用で無理やりカバーするしかありませんでした。
1-2. 「sankyodo」の実務ノウハウをパッケージ化
本パッケージの最大の特徴は、実際に自社でkintoneを運用し、業務効率化に成功している税理士法人のノウハウがベースになっている点です。
税理士法人の知見
会計事務所の業務フロー、必要な管理項目、法的要件を熟知した「実務に即した設計」。
はてなベース株式会社の技術力
kintone構築・カスタマイズの専門企業としての豊富な実績と、周辺システム連携の実装力。
この2社の協業により、「痒い所に手が届く」機能性と、システムとしての堅牢性を両立させたのが本パッケージです。
第2章:【顧客・契約・請求】業務の根幹を一気通貫で連動させる
本パッケージの中核をなすのが、「顧客」「契約」「請求」の3つのアプリの完全連動です。ここが繋がることで、転記作業や確認作業といった「付加価値のない時間」が劇的に削減されます。
2-1. 実務の解像度を極めた「顧客管理アプリ」
顧客情報は、事務所の全業務の起点です。単なる宛名リストではなく、担当者が業務を行う上で必要なあらゆる情報が集約されています。
■ 網羅的なフィールド構成
実務家の視点で厳選された管理項目が標準搭載されています。
- 基本識別情報: 顧問先コード、顧問先名(正式名称・表示名)、関与状況(見込・契約中・解約・休止等)、法人番号。
- 税務カレンダー情報: 決算月、申告月(延長特例の有無)、関与開始日、関与終了日。
- 組織・担当者情報: 拠点情報、代表者情報、そして担当者(主担当・副担当・社保担当など)を明確に管理。
- 連絡先の一元化: 電話番号、メールアドレスに加え、Chatwork IDやFAX番号も管理。電話番号をクリックすればPCから通話アプリ(callto)が、メールアドレスをクリックすればメーラー(mailto)が起動します。
- 詳細な属性情報:
- 住所管理:本店所在地、代表者住所、郵便物送付先を個別に管理可能。
- 納税環境:ダイレクト納付口座情報、整理番号、e-Tax/eLTAXのID・パスワード管理(権限による閲覧制限可)。
- 関係者情報:関係取引先、紹介元(紹介企業マスタ連携)。
■ 「見やすさ」へのこだわり(UI/UX)
情報量が多くなると画面が縦に長くなり、スクロールが大変になります。そこで、本パッケージではセクションの折り畳み機能を採用しています。
「基本情報」「連絡先」「契約状況」「タスク履歴」などのブロックごとに表示/非表示を切り替えられるため、必要な情報に瞬時にアクセスできます。
2-2. 抜け漏れと更新ミスを防ぐ「契約管理アプリ」
契約書を作って終わり、ではありません。契約内容をデータ化し、それが自動的に請求やタスクに反映される仕組みを構築しています。
■ あらゆる契約形態に対応
- 契約タイプ: 「月額顧問(サブスクリプション)」と「スポット(決算料、年末調整、税務調査立会など)」の両方に対応。
- 契約詳細: 契約番号、契約日、契約開始・終了日、自動更新の有無、契約金額。
- 報酬明細: 具体的な報酬の内訳や計算根拠を記録するリンク機能。
■ 「freeeサイン」連携による電子契約の自動化
電子契約サービス「freeeサイン」とのAPI連携が標準実装されています(オプション設定)。
kintone上で契約データを作成。
freeeサインを通じて顧問先へ契約書を送信。
顧問先が署名完了すると、kintone上のステータスが自動で「締結済」に更新。
締結済みの契約書PDFが自動的にダウンロードされ、kintoneの契約レコード、または指定のクラウドストレージに保存・紐付けされます。
これにより、「契約書どこいった?」という探し物がなくなり、更新時期の管理も万全になります。
2-3. 経理担当者を救う「請求・入金管理アプリ」
毎月の請求書発行業務は、多くの事務所にとって重荷です。本パッケージでは、ここをほぼ全自動化します。
■ 請求データの自動生成
契約アプリのデータ(金額・頻度・請求月)に基づき、毎月の請求データを自動生成します。
- 確定前のプレビュー機能により、事前に金額ミスがないか確認可能。
- スポット契約(決算料など)も、発生月に合わせて自動的に請求リストに上がります。
- これにより、契約変更があったにも関わらず旧料金で請求してしまうミスを根絶します。
■ 請求書発行と自動送付
作成された請求データから、ワンクリックで請求書PDFを作成します。
- k-Report連携: 帳票作成プラグイン「k-Report」を使用し、綺麗なフォーマットで出力。
- 自動保存: 発行されたPDFは、Google DriveやBoxなどの所定のフォルダに自動格納され、kintoneレコードにもリンクが貼られます。
■ 入金消込の効率化
入金管理アプリでは、銀行口座への入金予定と実績を管理します。
- 消込機能: 入金データと請求データを突き合わせ、消込を行います。
- 差額管理: 部分入金や振込手数料による差額、過入金などを管理し、未回収残高を正確に把握します。
- ステータス連動: 消込が完了すると、請求データのステータスが自動的に「入金済」に変わります。
第3章:【申告業務】プロセスの透明化とRPAによる自動化
会計事務所の本業である税務申告業務。ここの進捗が見えないことは、期限徒過のリスクに直結します。本パッケージは、業務プロセスを「見える化」し、単純作業を「ロボット」に任せることで、品質と効率を劇的に向上させます。
3-1. 業務進捗ダッシュボード(申告管理アプリ)
所長やマネージャーは、ダッシュボードを見るだけで事務所全体の動きを把握できます。
■ 全業務を網羅する管理対象
以下の業務ごとに、専用の進捗管理ビューやアプリが用意されています。
- 法人決算 / 消費税申告
- 個人確定申告
- 年末調整業務
- 法定調書・償却資産申告
- 月次監査
- 源泉所得税(毎月納付 / 納期特例)
■ ステータス管理と遅延アラート
各タスクには詳細なステータス(未着手、資料回収中、入力中、監査中、電子申告送信待、完了、差戻し等)を設定可能です。
さらに重要なのが「期限管理」です。
- 法定申告期限に対し、社内締切日を設定。
- 期限が迫った案件や、期限を過ぎた案件には「遅延フラグ」が立ち、赤色表示などで警告されます。
- 担当者、拠点、業務種別でフィルタリングできるため、「A支店の未完了案件だけを表示」といった操作も一瞬です。
3-2. RPA(Cloud BOT)による「タスク自動化」
本パッケージの真骨頂とも言えるのが、RPAツール「Cloud BOT」等との連携による自動化機能です。人がPC画面を操作して行っていた定型作業を、kintoneがトリガーとなってロボットに実行させます。
■ 具体的な自動化シナリオ
- e-Tax / eLTAX 送信自動化: 申告ソフトから出力されたデータを、ロボットが自動で電子申告システムへ送信。送信結果(受信通知)を取得し、kintoneに「成功/失敗」のステータスとログを書き戻します。
- Webゆうびん / Web FAX 連携: 郵送が必要な書類やFAX送信も、デスクから離れることなく、kintone上の操作だけで完了します。
■ 驚異の「ワンクリック業務」
例えば、毎月の源泉所得税のダイレクト納付。これまでは、金額を確認し、e-Taxソフトを立ち上げ、認証し、データを入力して…という手順が必要でした。
本パッケージでは、これらの定型処理を「ワンクリック」で行う仕組みが実装されています。
ボタン一つで納付依頼データが作成・送信され、完了確認まで行えるため、単純ミスが入り込む余地がありません。
第4章:【リスク管理】事務所を守り、信頼を高める「守り」の機能
業務効率化(攻め)だけでなく、リスク管理(守り)の機能も充実している点が、税理士法人監修ならではのポイントです。
4-1. ネガティブ情報の徹底管理
クレームや税務調査といったデリケートな情報は、属人化しやすく、報告が遅れがちです。これらを専用アプリで構造化して管理します。
- 税務調査報告アプリ: 調査対象年度、調査官情報、指摘事項、結末(修正申告有無)などを記録。事務所全体のナレッジとして蓄積します。
- クレーム報告アプリ: クレームの内容、発生原因、対応履歴、再発防止策を記録。「受付→対応中→完了」のステータス管理を行い、放置を防ぎます。
- 解約報告アプリ: 解約理由を分析し、将来の解約防止(チャーンレート改善)に役立てます。
4-2. 顧客対応履歴(コンタクトログ)
「言った言わない」のトラブルを防ぐため、日々のコミュニケーションを記録します。
- 対応記録: 電話、メール、面談、Web会議などの種別ごとに、日時、対応者、内容を記録。
- 問い合わせ管理: 顧問先からの質問や相談をチケット化して管理。担当者が不在でも、他の職員が履歴を見て「先日のお問い合わせの件ですね」とスムーズに対応できます。
第5章:【社内管理・拡張性】事務所運営のOSとして
顧客向け業務だけでなく、事務所内部の管理業務もkintoneに統合します。
5-1. 社内申請と工数管理
- 社内申請ワークフロー: 休暇申請、出勤簿、遅刻・早退届、経費精算(立替経費・交通費)などの申請・承認フローを標準装備。紙やハンコを廃止します。
- 工数管理: どの担当者が、どの顧客の、どの業務に何時間使ったかを記録。「稼働率分析」機能により、赤字顧客の発見や業務負荷の平準化に役立ちます。
- マスタ管理: 組織マスタ、業務マスタ、税務署マスタなどを一元管理し、メンテナンス性を高めています。
5-2. 完全ノーコードへのこだわりと拡張性
本パッケージは、システムエンジニアがいなくても運用できるよう配慮されています。
- JavaScript開発ゼロ: 複雑なプログラミングは一切行わず、kintoneの標準機能とプラグインのみで構築されています(ノーコード)。これにより、法改正や業務変更があっても、事務所内の担当者が設定画面から修正可能です。
- 高い拡張性: 導入後、自社でアプリを追加したり、項目を変更したりすることが自由自在です。「ブラックボックス化しない、自社で育てられるシステム」を提供します。
- API連携: freee、マネーフォワードクラウド、弥生会計などの主要会計ソフトとのAPI連携も可能です(別途見積)。顧客マスタの同期や、仕訳データの連携など、さらなる効率化が望めます。
第6章:導入の流れとサポート体制
「機能が多すぎて使いこなせるか不安」という方もご安心ください。導入から運用定着まで、手厚いサポート体制が用意されています。
6-1. 導入スケジュール
カスタマイズなし(最短約1ヶ月)
基本パッケージをそのまま導入する場合。ヒアリングから初期設定を行い、すぐに利用開始できます。
カスタマイズあり(最短約2〜3ヶ月)
事務所独自の業務フローに合わせた改修を行う場合。要件定義、設計、実装、テストを経て納品されます。
6-2. IT導入補助金の活用
本パッケージは、IT導入補助金の対象ツールとしての申請支援も行っています。
- 補助金申請を行い、「採択されてから」導入プロジェクトを開始するフローを選択可能です。
- 万が一不採択だった場合は、再申請するか、補助金なしで進めるかを選択できます。
6-3. 伴走型サポート(オンボーディング・保守)
システムは入れてからが本番です。
- オンボーディング: 導入直後には、kintoneの使い方やパッケージの操作説明などのレクチャーを実施します。
- 保守サポート: 導入後も、プラン(A/B/C)に応じて月間8時間〜20時間程度のサポート枠を提供。Chatworkやメールなどで気軽に質問・相談が可能です。
- 内製化支援: 「自分たちで設定を変えたい」という事務所様には、設定方法のレクチャーも行い、自走できる組織づくりを支援します。
まとめ:事務所の未来を変える「OS」の入れ替え
ここまで、士業向けkintoneパッケージの全貌をご紹介してきました。
これは単なる「便利ツール」の導入ではありません。
バラバラに散らばっていた情報を一つに集約し、属人化していた業務を標準化し、単純作業を自動化する。つまり、会計事務所の「経営基盤(OS)」をアップデートする取り組みです。
本パッケージ導入によるメリットの再確認:
- 脱・属人化: 担当者が変わっても、顧客情報や過去の経緯が瞬時に分かる。
- ミス・漏れの撲滅: 契約と請求の自動連動、期限管理のアラートでヒヤリハットをなくす。
- 高付加価値業務へのシフト: 自動化で生まれた時間を、顧問先への提案や相談対応に充てる。
「今の管理体制に限界を感じている」「kintoneを入れたいが、何から手をつけていいか分からない」
そうお考えの所長様、DX担当者様。実務の現場から生まれた本物のソリューションで、貴事務所のDXを加速させませんか?
よくある質問(FAQ)
導入を検討されている会計事務所様からよくいただくご質問をまとめました。
Q. 既存の会計ソフトとの連携は可能ですか?
A. はい、可能です。freee、マネーフォワードクラウド、弥生会計など、主要な会計ソフトとのAPI連携に対応しています(別途お見積り)。顧客情報の同期や仕訳データの連携など、ご要望に合わせて設定可能です。
Q. 導入支援やカスタマイズはどこまで対応してくれますか?
A. kintoneをすぐに業務で使える状態にする「初期設定」と、職員様向けの「オンボーディング(使い方のレクチャー)」まで実施します。また、事務所独自の業務に合わせたカスタマイズも承ります。
Q. 不要な機能は省いて、コストを抑えることはできますか?
A. 可能です。導入前のヒアリングで必要な機能を洗い出し、貴事務所の業務に必要なアプリだけに絞って導入いただけます。
Q. 自社内で設定変更(内製化)したいのですが?
A. 基本的には弊社で支援いたしますが、ノーコードで構築されているため、設定方法のレクチャーを受けていただければ自社での修正も可能です。「ブラックボックス化しないシステム」として運用いただけます。