地方自治体における生成AI導入の最前線:行政サービス向上と業務効率化への挑戦 - はてなベース株式会社

地方自治体における生成AI導入の最前線:
行政サービス向上と業務効率化への挑戦

2025年6月7日 AI活用 地方自治体

1. はじめに:変革期を迎える地方自治体と生成AIの可能性

日本の地方自治体は、少子高齢化に伴う労働力不足、複雑化・多様化する住民ニーズへの対応、そして限られた予算の中での行政サービス維持・向上という、多岐にわたる課題に直面しています。これらの課題解決に向け、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が急務となる中、生成AI(ジェネレーティブAI)が、業務効率の飛躍的な向上と、より質の高い住民サービスの提供を実現する鍵として、大きな期待を集めています。

市場スナップショットとトレンド

2024年の総務省のデータによると、生成AIを導入済みの自治体は、都道府県で約5割、指定都市で4割、その他市区町村では約1割となっています。実証・検討中の自治体を含めると、市区町村でも約7割が生成AI導入に前向きであり、全国規模で導入が進展していることがうかがえます。特に人口規模が大きい自治体ほど導入率が高く、未導入の自治体でも多くが実証実験の段階にあります。

自治体における生成AIの主な活用方法としては、「あいさつ文案の作成」「議事録の要約」「企画書の草案作成」「回答文やメール文案の作成」「ローコード(マクロ、VBA等)の生成」などが挙げられています。これらの活用により、実際に業務時間の削減効果も報告されており、例えばあいさつ文作成で年間1,500時間、ポスター・チラシ画像作成で年間160時間の削減といった事例があります。

一方で、導入にはセキュリティリスクへの懸念や、職員のITリテラシー、予算の確保といった課題も存在します。これらの課題を克服し、生成AIを効果的に活用していくことが、今後の地方自治体の持続的な発展に不可欠です。

表:地方自治体における生成AI導入ハイライト

自治体名 主な生成AI活用領域 主な報告された成果・効果
神奈川県横須賀市 文書作成、リサーチ、アイデア創出など全庁的な業務 職員の約半数が利用し、8割以上が「効率が上がった」と回答
茨城県つくば市 市民の声や市議会議事録の分析、政策提言支援 重要な課題の優先順位付け、行政の意思決定プロセス効率化
宮崎県都城市 自治体AI「zevo」による文章作成、SNS投稿、イベント名提案、システム調達仕様書案作成など 全庁的に年間約1,800時間の削減効果(推計)
沖縄県沖縄市 AIチャットボットによる住民からの問い合わせ対応(多言語対応) 窓口受付時間外の利用が40%、職員の負担軽減、住民サービスの向上
埼玉県戸田市 ChatGPTを活用した業務効率化 労働時間の削減
愛知県(県内39市町村) AIチャットボットによる総合案内サービス(生活関連の問い合わせ対応) 職員の問い合わせ対応時間削減、市民の利便性向上
青森県 AIリアルタイム議事録サービスによる会議の文字起こし 議事録作成にかかる作業時間を大幅に削減
山口県美祢市 観光用生成AI「ミネドン」による観光案内 観光客への情報提供、利便性向上

2. 生成AI活用の現場:国内地方自治体における導入事例

日本の地方自治体が生成AIをどのように活用し、具体的な成果を上げているのか、最新の事例を通じて見ていきましょう。

事例1:神奈川県横須賀市 – 全国に先駆けた全庁的なChatGPT導入

背景・課題

業務効率化と市民サービス向上を目指し、先進的なデジタル技術の活用を模索していました。

AIソリューション

2023年4月に全国の自治体でいち早くChatGPTを全庁的に導入。文書作成、リサーチ、アイデア創出といった幅広い業務で活用されています。

効果・詳細
  • 導入後、職員の約半数が利用し、そのうち8割以上が「効率が上がった」と回答しています。
  • 職員のデジタルリテラシー向上や意識改革、庁内のDX推進といった波及効果も生まれています。
  • 「生成AI開国の地」として、他の自治体とも知見を共有し、AI人材育成にも注力しています。

横須賀市の事例は、トップダウンでの迅速な意思決定と積極的な活用推進が、AI導入の成功に不可欠であることを示しています。

事例2:茨城県つくば市 – 生成AIによる政策提言支援と市民の声の可視化

背景・課題

市民の多様な意見を効率的に把握し、データに基づいた政策決定を行う必要がありました。

AIソリューション

生成AIを活用し、市民の意見や市議会での質疑を収集・分析。これにより、重要な課題を優先順位付けし、行政の意思決定プロセスを効率化するシステムを構築しています。このシステムは、PwCコンサルティング合同会社などと連携して開発され、AIが重要キーワードの抽出やダッシュボード表示にも対応します。

効果・詳細
  • 国内で初めてAIの深層学習機能を使う政策提言システムの構築に乗り出しており、市民ニーズの可視化を通じた効率的な政策立案を目指しています。
  • 例えば、総合公園の再整備に関する議論や、子育て支援、インターネット投票などが活発な議題としてAIによって可視化されています。

つくば市の取り組みは、AIが市民参加型の行政サービス提供と、より民主的な政策決定プロセスの実現に貢献する可能性を示しています。

事例3:宮崎県都城市 – 自治体専用AI「zevo」で年間1,800時間の業務削減

背景・課題

日々の業務における書類作成や挨拶文作成など、生成AIとの親和性が高い業務が多く、効率化が求められていました。

AIソリューション

LGWAN環境で利用するために企業と共創開発した「自治体AI zevo」を導入。文章作成、SNSへの投稿文章生成、新規イベント名提案、システム調達仕様書案作成、プログラミング補助、英語で書かれたエラーメールの内容確認など、多岐にわたる業務で活用しています。

効果・詳細
  • 文章作成に生成AIを活用することで文書作成業務に要する時間を大幅に削減。実際の利用状況から推計したところ、全庁的に年間約1,800時間の削減効果が見込まれています。
  • 水道スマートメーターのデータ取得状況確認作業の自動化では、1年間で約66時間の削減効果があり、職員の手動確認作業負担軽減とデータ取得の正確性向上も実現しました。

都城市の事例は、自治体特有の業務に特化したAIを開発・導入することで、具体的な業務時間削減と質の向上を両立できることを示しています。

事例4:沖縄県沖縄市 – AIチャットボットによる多言語対応と窓口業務効率化

背景・課題

多様な住民からの問い合わせに効率的かつ多言語で対応する必要がありました。

AIソリューション

AIチャットボットを導入し、住民からの問い合わせ対応を自動化。日本語だけでなく、英語、韓国語、中国語にも対応しています。

効果・詳細
  • チャットボットの利用のうち40%が窓口受付時間外であり、時間外の問い合わせニーズに対応できています。
  • 多言語対応により、外国人住民へのサービスが向上し、従来多言語対応を行っていた職員の負担も軽減されました。

沖縄市の事例は、AIチャットボットが住民サービスの利便性向上と、職員の業務負担軽減に貢献することを示しています。

事例5:愛知県(県内39市町村) – AIチャットボットによる広域連携での住民サービス向上

背景・課題

複数の市町村で共通する生活関連の問い合わせ対応を効率化し、住民サービスを向上させる必要がありました。

AIソリューション

AIを活用した総合案内サービスを導入し、県内39市町村で共同利用。引越し、妊娠、出産など、生活に関する問い合わせにAIチャットボットが対応しています。

効果・詳細
  • AIによる問い合わせ対応により、職員の対応時間が削減され、住民の利便性も向上しました。
  • 共同利用により、安価で安定的なサービス提供が実現できています。

愛知県の事例は、広域連携によるAI導入が、コスト効率とサービス向上を両立させる有効な手段であることを示しています。

3. 地方自治体が享受する主なメリットと戦略的洞察

  • 行政業務の大幅な効率化とコスト削減: 挨拶文作成、議事録要約、各種資料作成、問い合わせ対応といった定型業務をAIが自動化・支援することで、職員の作業時間を大幅に削減し、人件費の抑制にも繋がります。都城市の年間1,800時間削減はその代表例です。
  • 住民サービスの質の向上と利便性向上: AIチャットボットによる24時間365日の問い合わせ対応や多言語対応(沖縄市など)は、住民が必要な情報をいつでも、どの言語でも得られるようにし、利便性を大きく向上させます。また、AIによる窓口案内や混雑状況の可視化は、「待たせない行政サービス」の実現に貢献します。
  • データに基づいた政策立案と意思決定の迅速化: つくば市のように、市民の声や議事録をAIで分析することで、客観的なデータに基づいた政策立案や、迅速な意思決定が可能になります。これにより、より住民ニーズに即した効果的な行政運営が期待できます。
  • 職員の働き方改革と専門業務への注力: 定型業務から解放された職員は、企画立案や住民との対話といった、より創造的で付加価値の高い専門業務に注力できるようになり、モチベーション向上にも繋がります。
  • 行政の透明性と市民参加の促進: AIによる議事録の迅速な公開や、市民の意見分析結果の共有は、行政運営の透明性を高め、市民の行政への関心と参加を促す効果も期待できます。

重要なのは、AIが単に既存業務を効率化するだけでなく、行政サービスのあり方そのものを変革し、新たな価値を創造する触媒として機能している点です。例えば、つくば市の政策提言支援システムは、従来は埋もれがちだった多様な市民の声を拾い上げ、政策に反映させる新しい形の市民参加を可能にするかもしれません。また、AIによるデータ分析は、これまで見過ごされてきた地域課題の発見や、より効果的な解決策の立案に繋がる可能性があります。AIは、限られたリソースの中で最大限の成果を上げるための強力なツールであると同時に、より住民に開かれ、信頼される行政を実現するためのパートナーとなり得るのです。

4. 日本の地方自治体における生成AIの未来と「フロントヤード改革」

  • 「フロントヤード改革」の推進力としてのAI: 総務省が推進する、デジタル技術を活用して住民と行政の接点を強化する「フロントヤード改革」において、AIは中心的な役割を担います。AIによる窓口業務の自動化・効率化(書かない窓口、AI窓口案内など)や、オンライン申請のサポート、パーソナライズされた情報提供などが進み、住民はよりスムーズでストレスのない行政サービスを受けられるようになります。
  • 市民参加型スマートシティの実現: 海外の事例では、エストニアのタリン市やデンマークのオーデンセ市のように、デジタル技術を活用して市民参加を促し、都市運営を最適化するスマートシティの取り組みが進んでいます。日本でも、AIが交通流の最適化、エネルギー管理、防災計画などに活用され、市民がデータ提供やアイデア提案を通じて都市計画に参加する、よりインタラクティブなまちづくりが進む可能性があります。
  • EBPM(証拠に基づく政策立案)の高度化: AIによる高度なデータ分析は、政策効果の客観的な評価や、将来の社会課題の予測精度を高め、EBPMをさらに進化させます。これにより、より効果的で効率的な行政運営が実現します。
  • 地域課題解決のためのAI活用深化: 防災・減災対策におけるリアルタイム情報分析、高齢者や障がい者支援のための個別最適化されたサービス提供、地域経済活性化のための観光情報発信や企業誘致支援など、AIは様々な地域課題の解決に貢献するでしょう。
  • 自治体間連携とオープンデータの推進: AI活用ノウハウや学習済みモデルを自治体間で共有したり、行政データをオープン化して民間企業や研究機関によるAI開発を促進したりする動きが活発化し、日本全体のGovTechレベル向上に繋がる可能性があります。

これらの未来像は、AIが単なる業務効率化ツールを超え、地方自治体のあり方や住民との関係性を根本から変革し、より豊かで持続可能な地域社会を共創していく可能性を示しています。

5. 結論:AIと共に築く、住民中心のスマートな地方自治の未来

日本の地方自治体において、生成AIは既に業務効率化、住民サービス向上、そしてデータに基づいた政策決定といった領域で、その具体的な効果を示し始めています。本稿で紹介した自治体の先進的な取り組みは、AIを戦略的に活用することで、山積する課題に立ち向かい、新たな行政価値を創造しようとする力強い意志の表れです。

今後、地方自治体が生成AIのポテンシャルを最大限に引き出すためには、技術導入だけでなく、職員のAIリテラシー向上、セキュリティ対策の徹底、そして何よりも「住民中心」の視点に立った活用戦略の策定が不可欠です。生成AIは、職員にとっては創造性を発揮し、より本質的な業務に集中するための強力なサポーターとして、住民にとってはより質の高い、きめ細やかな行政サービスを享受するための窓口として、地方自治の未来を明るく照らし出すでしょう。AIとの協調を通じて、よりスマートで、より効率的で、そして何よりも住民一人ひとりに寄り添った地方自治の実現が期待されます。

参考文献

  • https://ledge.ai/articles/tsukuba_supercity_strategy_on_genai
  • https://first-contact.jp/blog/article/localgovernment/
  • https://ledge.ai/articles/ledgeai24to25-interview-tsukuba
  • https://agekke-ai.co.jp/column/148/
  • https://spikestudio.jp/blog/5_z5wYup
  • https://blog-ja.allganize.ai/llm_usecase2/
  • https://rimo.app/blogs/ai-business
  • https://aka-link.net/overseas-local-governments/
  • https://www.jri.co.jp/file/report/researchfocus/pdf/15444.pdf
  • https://www.jt-tsushin.jp/articles/service/platform-ntt-east-20250219
  • https://www.transcosmos-cotra.jp/municipal-front-yard-reform
  • https://aka-link.net/improving-local-government/
  • https://social.tobutoptours.co.jp/column/generation_ai/
  • https://www.chisou.go.jp/tiiki/kokusentoc/supercity/pdf/240426_houkokusho.pdf
  • https://www.chisou.go.jp/tiiki/kokusentoc/supercity/pdf/240426_houkokusho_gaiyou.pdf
  • https://www.soumu.go.jp/main_content/000997290.pdf
  • https://business.ntt-east.co.jp/bizdrive/column/post_373.html
  • https://www.govtech.com/spotlight/the-next-evolution-of-the-smart-city-is-here
  • https://opengov.com/article/unlocking-the-power-of-ai-for-city-and-county-managers-insights-from-our-webinar/
  • https://graffer.jp/govtech/articles/govtech-digitalization-report-2024

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