業務改善やDX推進のヒントを求め、YouTubeでノーコードツールkintone(キントーン)の具体的な活用事例を調査したところ、組織の規模や業種を問わず、目覚ましい成果を上げている数々の実例に触れることができました。特に印象的だったのは、大手企業や行政機関から小規模な製造業まで、kintoneがいかに現場主導の変革を力強く後押ししているかという点です。
はじめに:DXの民主化が始まっている
本記事では、その中でも特に示唆に富む2つの事例――DXの最前線を走る大手企業・行政のダイナミックな取り組みと、限られたリソースで成果を上げる零細製造業の地に足の着いた事例――を深掘りし、彼らがどのように課題を乗り越え、具体的な成果を生み出し、そして組織に変化をもたらしたのか、その秘訣に迫ります。
第1部:大手企業・行政におけるDX最前線 ~kintone×トヨクモ連携が生む変革~
サイボウズ社のkintoneは、専門知識がなくとも業務アプリを開発できるノーコードツールとして知られています。さらに、トヨクモ社が提供する連携サービス群(フォームブリッジ、KViewerなど)を組み合わせることで、その可能性は大きく広がります。
エン・ジャパンの挑戦:「アジリティ」を武器に年間26,000時間の業務削減
人材サービス大手のエン・ジャパンでは、kintoneとトヨクモ製品を駆使し、驚異的な成果を上げています。導入の背景には、リーマンショック後の売上回復計画の中で、現場のスピード感向上とエンジニアリソースの逼迫という課題がありました。
- 作成アプリ数:のべ8,600個(実稼働約1,000個)
- 業務削減効果:年間26,000時間
- 「実験ができる」環境により、予算取りなしでアイデアを即座に形に
- 「負けない戦い」戦略:ニーズが明確で成果を出しやすい部門からスタート
- 「あえてリスクを負う」方針:野良アプリの発生を過度に恐れず、現場の自主性を重視
- 教育体制の充実:「自動車教習所」のようなマニュアル整備と研修
- セキュリティ配慮:段階的な運用範囲拡大とデータ種類の慎重な協議
旭川市の改革:「誰でも使える」ツールで市民サービス向上
人口減少や少子高齢化が進む中、職員が減少しても行政サービスを維持・向上させるという大きな課題に直面。2020年の業務調査で、専門性が不要かつ定型的な作業が全体の42.3%を占めることが判明しました。
- ゴミ申請Web化:年間8万件の電話申し込みをWebフォームに移行
- HP情報リアルタイム化:KViewerでkintoneデータをリアルタイム反映
- 「お試しアプリ」制度:個別予算不要で職員が自由に実験可能
- 企業版ふるさと納税活用:kintone専門家を職員として迎え入れ
「研修だとかもしたり、実際にアプリを作り上げたりっていうことが起きると職員が自信つくので、自信ついた職員が他の場所でどんどん同じようにアプリを作ったりとかして広がっていく」という好循環を創出。職員のモチベーションは「住民の皆様が喜ぶのを見たい」という想いがDX推進の原動力となっています。
第2部:従業員6名の町工場でもできた!小椋樹工に学ぶ「超」現場密着型DX
「社長一人の限界」から始まった業務改善
創業から約10年、売上・従業員数ともに順調に推移する一方で、部品管理、作業記録確認、伝票処理、勤怠管理、受注管理、材料発注など、あらゆる管理業務が小倉拓也代表に集中し、「生産に手が回らなくなってきた」という課題を抱えていました。
- 低コストで導入できる
- シンプルに必要な情報だけを集めたい
- スマホ・タブレットでも入力できる
支援機関からアドバイスは受けつつも、アプリ開発は小倉代表自身が実施。
「紙からの解放」- シンプルだけど効果絶大なアプリたち
手書きだった「何を何個作ったか」という記録を、品番選択と数量入力だけの簡単なアプリに移行。集計ボタン一つで支払い明細書も作成可能に。
効果:毎月10件・4時間かかっていた集計作業が30分に短縮
従来カレンダーに手書きしていた休暇希望をアプリ化。情報共有がスムーズになり、従来代表が行っていた生産シフトの調整を現場責任者が行えるように。
手書きの日報をスマホ入力に変更。品番は絞り込みワードで選択、あとは個数を入力するだけ。
従業員の声:「自分で入力する項目が少なく最初から直感で操作できた」「使い始めてから3日で覚えることができた」
成功の秘訣は「徹底したシンプル化」と「使う人への配慮」
- 「データは100%収集できないと意味がない」という考えから、入力作業をとにかく簡単に
- 「入力時間は最小限に」「入力を少なく選択式にする」をキーワードに設計
- 使用率100%を目指す設計思想
従業員が慣れてきた段階で少しずつ情報を追加していく「アプリを育てていくようなイメージ」で進めた結果、1年半以上、毎日全従業員が入力できている状態が続いています。
kintone導入からわずか4ヶ月で複数のアプリをリリースし、間接部門の業務スリム化、そしてパート従業員も含めた全員がスマホでデータ入力できる体制を実現。
組織規模を超えてDXを成功に導く「5つの鍵」
大手企業・行政と零細製造業。規模も業種も異なる組織の事例ですが、DXを成功に導くためには共通する重要なポイントが見えてきます。
実際に業務を行い、課題を最もよく理解している現場の人間が、主体的に改善に取り組むことがDXの第一歩です。
最初から完璧を目指すのではなく、小さく始めて素早く改善を繰り返すアプローチが有効です。エン・ジャパンの8,600アプリも実験の積み重ねであり、小椋樹工も「簡単にできることからスタート」しました。
kintoneのようなノーコード/ローコードツールは、IT専門家でなくてもシステム開発を可能にし、DX推進のハードルを大きく下げます。
旭川市の「お試しアプリ」制度や、エン・ジャパンの「あえてリスクを負う」方針、小椋樹工の「アプリを育てる」という考え方は、トライアンドエラーを奨励し、組織全体の学習能力を高めます。
大手企業では経営層のDXへの理解と支援が不可欠であり、零細企業では社長自身の強い意志と、実際にツールを使う従業員への細やかな配慮が成功の鍵となります。
参考動画紹介
本記事で紹介した事例は、以下のYouTube動画を参考にしています。より詳細な内容や当事者の生の声を聞きたい方は、ぜひご覧ください。
まとめ
DXは、一部の先進的な大企業だけのものではありません。kintoneのようなノーコードツールは、組織の規模や業種を問わず、現場の知恵とアイデアを最大限に引き出し、具体的な業務改善と、ひいては組織全体の変革を実現するための強力な武器となり得ます。
エン・ジャパンや旭川市のような大規模組織では、戦略的な導入と丁寧な組織浸透によって大きな成果を生み出し、小椋樹工のような小規模な事業所では、社長自らが現場の課題に即したシンプルなツール開発を行うことで、着実な業務効率化を達成しています。
これらの事例は、DX推進に課題を感じている多くの企業や組織にとって、次の一歩を踏み出すための勇気と具体的なヒントを与えてくれるのではないでしょうか。自社の課題を見つめ直し、現場の声に耳を傾け、適切なツールを選択することで、DXの扉は誰にでも開かれているのです。
現場の課題に寄り添った最適なDX戦略をご提案します。
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