ハーネス設計開発とは何か——車1台の電線を「回路」から「工場で組める図面」まで落とし込む仕事

ハーネス設計開発は、車1台分の電気のつながりを回路図から工場で組める実寸の図面まで落とし込む仕事。5つの工程、3Dと2Dを行き来する理由、設計変更に弱い構造、AIが効く場所と効かない場所を整理する。

「ハーネス設計」という部署名や求人票を見ても、何をする仕事なのか像が結ばない。そういう声をよく聞きます。ハーネスは電線の束のこと。電線総合技術センター(JECTEC)は中型車1台あたりの自動車用電線を、総長1,100〜1,200m、銅量8〜9kg、回路数800〜900と示しています。住友電装はワイヤーハーネス1台分の重量を20〜30kgとしています。1km を超える電線が、車体の隙間を縫うように張り巡らされている計算です。ハーネス設計開発は、この束の中身と形を決める仕事です。

決めるのは、線をどこからどこへ引くかだけではありません。電線1本ごとの太さ、端子の型、コネクタの極数と位置、車体のどこを通してどこで固定するか。そして最後に、その形が工場で人の手で組める形になっているかどうか。この記事では、ハーネス設計開発が何をする仕事なのか、どんな工程を通るのか、どこが難しいのか、CADと生成AIがどこまで肩代わりしているのかを順に整理します。

ハーネス設計開発をひとことでいえば、「車1台分の電気のつながりを、回路図から、工場の作業台の上で組める実寸の図面まで落とし込む仕事」。難しさは電気そのものではなく、電気・機械・製造の3つの制約を同時に満たさなければならない点にある。

この記事の要約

ハーネス設計開発とは何か

ワイヤーハーネスは、複数の電線を束ね、必要に応じて端子とコネクタを取り付け、車両全体に電力と信号を分配する部品群です。バッテリーからヘッドライトへ電気を送るのも、車速センサーの値をエンジン制御ユニットへ届けるのも、物理的にはこの束が担っています。

ハーネス設計開発は、その部品群の仕様と形状を、量産できる状態まで決めきる仕事を指します。回路図を描くところから、工場に渡す実寸の製造図面と部品表を出すところまでが範囲です。電気設計だけでも機械設計だけでもない、その中間に位置する領域だと考えると分かりやすい。

ハーネスが担っている役割は、大きく3つあります。

  • 電力供給 — バッテリーやオルタネーターから、各機器へ電気を分配する
  • 信号伝達 — センサー、ECU(電子制御ユニット)、アクチュエーターの間で信号をやり取りする
  • システム統合 — 多数のECUをネットワークとして結び、車両全体をひとつの制御対象にする

誤解されやすいのは、ハーネスが「汎用部品」だと思われがちな点です。実際には車体の形に強く依存します。同じ回路構成でも、車種が違えば通る経路も長さも固定点も変わり、まったく別の部品になる。だからハーネス設計は、車両そのものの開発と並走せざるを得ません。車体の設計変更がそのままハーネスの設計変更になります。

ハーネスは何でできているか

設計で扱う部品は、大きく4種類です。それぞれ「何を決めるか」がはっきり分かれています。

部品役割設計で決めること
電線電気と信号を通す導体の材質(銅・アルミ)、断面積、被覆の耐熱グレード、色
端子電線とコネクタを接続する端子の型、圧着の条件、めっき仕様
コネクタ機器との着脱部をつくる極数、防水の要否、誤挿し防止形状、搭載位置
保護材束を守り、車体に固定するコルゲートチューブ・テープの巻き方、クリップの位置と種類

電線では、導体をアルミに置き換える動きと、被覆を薄くして細径化する動きが進んでいます。狙いは重量とコストです。電動化で高圧系の太い線が増えた分、信号系を軽くして相殺したいという事情があります。ただしアルミは銅より導電率が低く、同じ電流を流すには断面積を増やす必要があるため、単純な置き換えにはなりません。

端子で効いてくるのが圧着の品質です。圧着が甘いと接触抵抗が上がり、そこが発熱します。走行中の振動で緩めば、症状は「たまに動かない」という再現しにくい形で出ます。評価試験に端子の保持力測定や外観確認が入るのは、この故障モードが厄介だからです。

コネクタは、極数(何本の線を挿せるか)と防水の要否で選定します。エンジンルームやドアの内側など水がかかる場所には防水コネクタを使う。さらに、隣り合うコネクタの形状を変えて誤挿しを物理的に防ぐ設計も入ります。保護材のうちクリップは、車体のどこに固定するかを決める部品で、次の配索設計と直結しています。

近年は通信系の比重が上がりました。CAN、LIN、Ethernetといった車載ネットワークの線が増え、単なる電力線の束ではなくなっています。あわせて、エンジンルーム、キャビン、ドアといった単位でハーネスを分割し、コネクタでつなぐモジュール化も一般的になりました。

5つの工程で何を決めるか

ハーネス設計開発の5工程。回路設計、配索設計、製品図、部品表・見積、評価・試験の順に、各工程で決めることと次工程へ渡す成果物を示した図
工程ごとに「決めること」と「次に渡す相手」が変わる

会社によって工程の切り方と呼び方は違いますが、通る順番はおおむね共通しています。

1. 回路設計

どの機器とどの機器を、何本の線でつなぐかを決めます。ここで電線1本ごとの断面積が決まる。流す電流と許容できる電圧降下から太さを逆算し、あわせてヒューズの容量とリレーの配置を決めます。成果物は回路図と接続リストで、これが以降すべての工程の入力になります。

この段階での判断ミスは後工程で直しにくい。電線を1サイズ細くすればコストと重量は下がりますが、電圧降下が許容値を超えれば末端の機器が仕様どおり動きません。逆に余裕を持たせすぎると、車1台あたりの重量とコストにそのまま乗ります。

2. 配索設計(3D)

車体の3Dモデルの中で、束を実際に通す経路を決めます。他の部品と干渉しないか、電線の曲げ半径が許容内か、可動部(ドアやシート)の動きに追従できるか、熱源から十分離れているか。クリップで固定する位置も、ここで確定します。

配索は「最短距離で通す」だけの作業ではありません。組み付けの順番も考える必要があります。車体の組立ラインで、この束を通す作業が何番目に来るのか。作業者の手が入る隙間があるか。設計上は成立していても、工場で通せない経路は成立していないのと同じです。

3. 製品図(2D展開)

3Dで決めた経路を、平面に展開して製造用の図面にします。分岐の位置、テープの巻き方、保護材の範囲、各枝の長さを、実寸で指定します。ハーネスメーカーはこの図面を作業台に貼り、その上で束を組み立てます。

4. 部品表と見積

電線・端子・コネクタ・クリップを品番単位で確定させ、部品表(BOM)にまとめます。この時点で1台あたりの重量とコストが決まる。設計の良し悪しが数字になって表れる工程で、回路設計まで戻って線種を見直す判断が入ることもあります。

5. 評価・試験

端子の圧着保持力、振動試験、熱サイクル試験、導通確認。量産に入ってよいかを判定します。ハーネスは故障すると症状が出る場所と原因の場所が離れやすく、市場に出てからの切り分けコストが高い。だから量産前の確認が手厚くなります。

なぜ3Dで設計したのに、2Dに戻すのか

左に3Dで立体的にねじれた状態のハーネス経路、右に平らな組立図板の上に展開された2D製造図面を並べ、両者を「展開」の矢印で結んだ図
設計は3D、製造は平面。この差を埋める変換が工程として必要になる

工程3で違和感を持つ方がいるかもしれません。3Dで設計したのに、なぜわざわざ2Dの図面を作り直すのか。理由は製造側にあります。

フジクラの技報は、この事情をはっきり書いています。完成車メーカーは部品を3Dのデジタルモデルで開発・管理するようになり、ハーネスの設計データも3D CADで受け渡されるようになった。ところがハーネスメーカー側では、平らな組立図板の上で束を組み立てるため、2Dの製造図面が依然として必要になる。同社はこの差を埋めるため、顧客から受け取った3Dモデルを2Dへ展開し、自社の製造用CADへ変換するシステムを開発したと記しています。

展開はそのまま平らに潰せば済む話ではありません。車両に組み付けられた状態のハーネスは、電装品や車体の面に沿ってねじれています。そのねじれを考慮しながら、実寸スケールの組立図板レイアウトに落とす必要がある。この変換がどこまで自動化されているかで、設計変更のたびにかかる工数が大きく変わります。

ハーネス設計が難しい3つの理由

回路数が増え続ける

中型車1台あたりの回路数は800〜900というのがJECTECの示す数字です。ここにハイブリッド、電気自動車、燃料電池車、運転支援といった機能が加わるたび、回路は増えます。通信系の線も同様です。

回路が増えると、束は太く重くなります。ところが車体の隙間は広がりません。むしろ衝突安全のための構造材や、電池パックの搭載で狭くなる方向です。増える線を、狭くなる隙間に通す。この矛盾が設計の難易度を押し上げています。

手作業で組まれる前提で設計する

ハーネスの組み立ては、電線の切断・皮剥き・圧着といった工程で機械化が進んだ一方、束ねてテープを巻き、図板の上で形にする工程は今も人の手が主体です。そのため設計側は、作業者が間違えにくい形になっているかまで考える必要があります。

たとえば、同じコネクタの隣り合う穴に同じ色の電線を挿す設計にしない。人が目視で確認するため、色が同じだと挿し間違いに気づけないからです。電気的にはどちらでも成立するのに、製造の都合で選択肢が狭まる。ここが純粋な電気設計と違うところです。

設計変更が全工程に波及する

車両側で機器が1つ追加されると、ハーネスには線が数本増えます。この変更は工程をまたいで連鎖します。

波及先起きること
回路設計追加回路の電流計算、ヒューズ容量の見直し
配索設計束が太くなり、通していた隙間に入らなくなる可能性
製品図分岐位置と枝の長さの変更、図板レイアウトの引き直し
部品表コネクタの極数変更、品番の差し替え、重量とコストの再計算
評価・試験変更範囲によっては試験のやり直し

車両開発の終盤に入ってからの変更ほど、影響は大きくなります。ハーネスは搭載される部品がすべて決まらないと最終形が決まらないため、開発日程の後ろに寄りやすい。そこへ変更が来ると、後ろに逃げる余地が残っていません。ハーネス設計が「設計変更に最も弱い領域」と言われるのは、この構造によるものです。

自動車以外のハーネス設計

ハーネスは自動車だけの部品ではありません。産業機械、工作機械、医療機器、産業用ロボット、建設機械、鉄道車両、住宅設備。電気で動くものには、たいていハーネスが入っています。

ただし設計の性格はかなり違います。自動車が「1車種を何十万台も作る」前提なのに対し、産業機器の多くは多品種少量です。1台ごと、あるいは数台ごとに仕様が変わる。すると、1本のハーネスあたりにかけられる設計工数の比率が自動車より大きくなります。

  • 自動車 — 量産前提。設計工数を大量の台数で割れるため、1台あたりのコストと重量を詰める価値が大きい
  • 産業機械・工作機械 — 多品種少量。過去の類似案件の図面をどれだけ流用できるかが工数を左右する
  • 医療機器 — 安全規格への適合が前提条件。試験と記録の負荷が高い
  • 産業用ロボット — 可動部に追従する耐屈曲性が要件。断線寿命が設計制約になる

多品種少量の現場では、設計そのものより「過去の設計をどう探すか」が効いてきます。似た仕様の案件を過去に手がけていても、その図面と部品表が見つからなければ、一から引き直すことになるからです。

CADが担う範囲と、人が担う範囲

ハーネス設計には専用CADがあり、担う範囲は年々広がってきました。たとえば図研のHarness Designerは、回路設計データの取り込み、3D配索経路の反映、2D製品図の作成、部品表の作成、製造設計までを1つの流れとして扱います。設計ルールの自動チェック(DRC)で寸法の成立性を確認し、コストと重量を自動算出し、設計変更のときは前版との差分を抽出する機能も持ちます。

工程CADが自動化している部分人が判断する部分
回路設計接続リストの整合チェック、断面積の計算どの機能をどう電源系統に割り当てるか
配索設計干渉チェック、長さの自動算出どの経路を選ぶか、組み付け順との折り合い
製品図3Dから2Dへの展開、図板レイアウトの生成分岐位置の妥当性、作業者が組みやすい形か
部品表品番の展開、重量とコストの算出コストと重量のどちらを優先するか
設計変更前版との差分抽出どこまで作り直し、どこを流用するか

CADが肩代わりしてきたのは、条件が決まれば答えが1つに決まる作業です。断面積の計算も、3Dから2Dへの展開も、前版との差分抽出も、入力が同じなら出力が同じになる。人手でやると時間がかかり、かつ見落としが起きる領域から順に自動化が進んできました。

表の右側に残っているのは、いずれもトレードオフの判断です。コストを下げれば重量が増える、重量を減らせば作業性が落ちる、作業性を上げれば経路が伸びる。どれも数式で一意に決まりません。CADは選択肢を素早く出せますが、どれを選ぶかは設計者が引き受けています。

生成AIが効く場所と、効かない場所

設計現場に生成AIを入れる話になると、「AIが図面を引く」という方向を期待されがちです。現時点で現実的なのは、そこではありません。効くのは、設計者が図面を引く前後で時間を取られている部分です。

  • 過去の設計資産を探す — 類似仕様の図面、部品表、不具合報告書を横断して検索する。多品種少量の現場ほど効く
  • 仕様書の読み合わせ — 顧客から届いた要求仕様書と、社内の設計標準の食い違いを洗い出す
  • 部品選定の候補出し — 条件に合うコネクタや電線の候補を絞り込み、最終判断は人が行う
  • 設計変更の影響範囲の一次整理 — 変更点から、確認すべき箇所の当たりをつける

いずれも共通しているのは、判断そのものではなく判断材料を集める工程だという点です。特に効くのが1つ目で、社内に散らばった図面・部品表・不具合履歴を検索できるようにする仕組みは、RAG(社内文書をAIが検索できる仕組み)と呼ばれます。過去の類似案件を10分で見つけられるか半日かけて探すかは、多品種少量の設計工数に直接効きます。

一方で、任せてはいけない領域もはっきりしています。3D空間での物理的な成立性、圧着や防水の品質判断、安全規格や法規への適合の最終判断。これらは根拠を追える形で人が確認する必要があります。生成AIの出力は、根拠の追跡が構造的に難しいためです。

もうひとつ前提があります。AIに探させるには、探される側のデータが整っていることが要ります。図面が個人のPCに散らばり、部品表がExcelで版管理されていない状態では、検索の仕組みを乗せても答えは出ません。AIを導入したのに費用対効果が出ない原因の多くは、モデルではなくデータ側にあります。設計部門でAI活用を検討するなら、着手順は図面・部品表の一元化が先です。

設計以外の周辺業務、たとえば案件ごとの進捗管理、部品の手配状況、試験記録の管理といった領域は、業務アプリを組み合わせて整理する方法のほうが早く効果が出ることもあります。

これから関わる人が押さえる4点

ハーネス設計開発に配属された方、あるいは発注側としてハーネスメーカーとやり取りする立場になった方が、最初に押さえておくと話が早い点を4つ挙げます。

  1. 電気・機械・製造の3つの制約を同時に見る仕事だと理解する。電気的に正しくても、通らなければ、組めなければ成立しない
  2. 設計変更の連鎖範囲を先に把握しておく。1本の追加が、部品表と試験まで届く
  3. 3Dと2Dの変換がどこまで自動化されているかを確認する。ここが手作業だと、変更のたびに工数が積み上がる
  4. 過去の設計資産が探せる状態にあるかを見る。多品種少量ほど、探す時間が設計時間を超える

いずれも、ハーネス設計が電気設計の一分野ではなく、電気・機械・製造をまたぐ調整の仕事だという点から出てきます。図面を引く時間より、条件を突き合わせて折り合いをつける時間のほうが長い。そこを理解しているかどうかで、設計者との会話の質が変わります。

この4点は、どれも道具を入れれば解決する話ではありません。ただし4つ目については、社内に蓄積された図面と部品表を検索できる状態にするだけで、設計者が本来の判断に使える時間が増えます。着手しやすく、効果が見えやすい順番でいえば、ここから入るのが現実的です。

設計部門のデータ整理とAI活用のご相談

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