優良顧客は誰か——RFM分析で顧客を10グループに分ける

「優良顧客を大事にしましょう」とよく言われます。では、自社の優良顧客とは具体的に誰のことでしょうか。何人いて、売上のどれくらいを支えていて、いま離れかけている人は何人いるのか。これ…

「優良顧客を大事にしましょう」とよく言われます。では、自社の優良顧客とは具体的に誰のことでしょうか。何人いて、売上のどれくらいを支えていて、いま離れかけている人は何人いるのか。これにすぐ答えられない場合、顧客を「分けて見る」仕組みがまだ整っていないのかもしれません。その第一歩として広く使われているのが RFM分析 です。

この記事は、統計やプログラミングの知識がない方でも読めるように、ダミーのEC(ネット通販)購買データを使って RFM の考え方を最後まで通します。前回のLTV(顧客生涯価値)入門が「顧客全体の価値をはかる物差し」だったのに対し、RFM はその物差しを一人ひとりに当てはめ、顧客を扱いやすいグループに切り分ける道具です。

RFM とは何か

RFM は、顧客を3つの観点から評価する手法です。Recency(最近いつ買ったか)、Frequency(どれくらいの頻度で買うか)、Monetary(これまでいくら使ったか)の頭文字をとっています。この3つは、どれも「顧客が自社にとってどれだけ大切か」を別々の角度から映す鏡です。

用語メモ|RFM分析 — 顧客を Recency(最終購入からの近さ)・Frequency(購入頻度)・Monetary(累計購入額)の3軸で評価し、似た特徴の顧客をグループにまとめる手法。1990年代の通販・ダイレクトマーケティングで広まり、いまもEC・小売・サブスクで定番です。難しい統計を使わずに始められるのが利点です。

なぜこの3つなのかというと、組み合わせることで顧客の「状態」が立体的に見えるからです。たとえば「最近買った(Rが高い)が、これが初回(Fが低い)」なら新規客、「よく買っていた(Fが高い)のに最近来ない(Rが低い)」なら離れかけた常連客、というように、同じ売上金額の顧客でも置かれている状況はまったく違います。一つの軸だけでは、この違いが見えません。

なぜ「分けて」考えるのか

顧客全員に同じメールを送り、同じクーポンを配る。これが一番ラクなやり方ですが、効率は良くありません。毎週買ってくれる常連客に「久しぶりに割引します」と送っても響かないし、半年買っていない人に新商品の案内だけ送っても戻ってきません。相手の状態に合わない施策は、コストの割に効かないのです。

用語メモ|セグメンテーション — 顧客全体を、似た特徴を持つ小さなグループ(セグメント)に分けること。「分けて、それぞれに合った打ち手を当てる」ための前段の作業です。RFM はこのセグメンテーションを、購買データだけで手早く行う代表的な方法です。

顧客を分ければ、限られた予算と人手を「効く相手」に集中できます。優良顧客には関係を深める施策を、離れかけた相手には引き留めを、新規には次の一歩を促す案内を。この記事の後半では、実際にどのグループにどんな打ち手が向くかまで見ていきます。

3つの軸を点数化する

RFM の実務では、3つの軸をそれぞれ点数にして扱います。一般的なのは、全顧客を各軸で5段階に区切る方法です。Recency なら「最近買った上位2割が5点、その次が4点……一番昔の2割が1点」という具合に並べ替えて点をつけます。Frequency と Monetary も同じ要領です。

RFM分析の考え方。R/F/Mの3軸で顧客を5段階に点数化し、チャンピオン・離反の危険・休眠などのグループごとに打ち手を変えることを示した概念図
RFM の流れ。3軸で点数化し、組み合わせでグループに分け、グループごとに打ち手を変える

用語メモ|五分位(ごぶんい)でのスコアリング — 顧客を「上位20%ずつ」5つの帯に分けて1〜5点をつけるやり方。全体の中での相対的な位置で点数が決まるため、自社の顧客の中で「誰が上位か」を素早く判定できます。点数の付け方は他にもありますが、まずはこの五分位が分かりやすく、よく使われます。

点数がついたら、その組み合わせで顧客をグループに振り分けます。たとえば「Rが高くFも高い」ならチャンピオン、「Fは高いがRが低い」なら離反の危険、「RもFも低い」なら休眠、というように、あらかじめ決めたルールで名前をつけていきます。難しい数式は使わず、点数の組み合わせを表で割り当てるだけで始められます。

実際、RFM は表計算ソフトでも始められます。必要なのは「いつ」「誰が」「いくら買ったか」の3列だけ。最終購入日から経過日数を出し、顧客ごとに購入回数と合計金額を集計すれば、もう R・F・M の素材はそろいます。あとは各列を5段階に区切って点をつけ、組み合わせでグループ名を割り当てるだけです。最初から専用ツールを導入する必要はなく、手元のデータで小さく試して効果を確かめてから、運用を広げていくのが現実的です。

ダミーEC で顧客をグループに分けてみる

ここからは、あるネット通販を想定したダミーデータ(架空の顧客の購買履歴)で実際にグループ分けをします。1年ぶんの購買履歴から R・F・M を計算し、点数化して、9つの名前付きグループに振り分けました。まず見てほしいのが、グループごとの「人数の割合」と「売上の割合」のギャップです。

セグメント別の人数割合と売上割合の対比。チャンピオンは人数21%だが売上38%、ロイヤル顧客は20%で売上24%。逆に新規・有望や休眠・流出は人数が多いが売上は少ない
上位グループは人数より大きな売上を生み、下位グループは人数の割に売上が小さい

この図には、商売の本質が表れています。チャンピオン層は顧客のおよそ2割ですが、売上の4割近くを生んでいます。ロイヤル顧客を合わせた上位2グループだけで、人数では全体の約4割なのに、売上ではおよそ6割を占めました。一方で、人数は多いのに売上への貢献が小さいグループ(新規・有望や休眠・流出)も見えます。「全員を平等に扱う」ことが、いかに非効率かが一目でわかります。

用語メモ|パレートの法則(80対20の法則) — 「成果の大部分は、一部の要素が生み出す」という経験則。売上の多くを一部の優良顧客が支える、という形でよく現れます。RFM は、この「一部の優良顧客」が具体的に誰なのかを名指しできるようにする道具です。

もう少し具体的に見てみましょう。このダミーデータのチャンピオン層は、平均で年に9回以上購入し、直近の購入も2〜3週間以内でした。1人あたりの累計購入額も全グループで最も高く、まさに事業を支える中核です。逆に休眠・流出のグループは、人数では1割を超えるのに、平均購入回数は2回ほどで、半年以上も購入がありません。この両端を同じ予算・同じメッセージで扱っていたとしたら、優良客には物足りず、休眠客には届かない、という二重のもったいなさが生まれていることになります。グループに分けて初めて、この構造が数字で見えてきます。

セグメントマップで全体像をつかむ

人数と売上のギャップがわかったら、次は各グループが「どんな顧客の集まりか」を地図にして俯瞰します。横軸に Recency(最近買ったか)、縦軸に Frequency(よく買うか)をとり、各グループを点として配置したのが下の図です。円の大きさは人数、色の濃さは売上への貢献度を表しています。

RFMセグメントマップ。横軸Recency縦軸Frequencyの平面に各グループを配置。右上にチャンピオン(大きく濃い)、左下に休眠・流出、左上に大事な離反予備軍が位置する
右上ほど優良、左下ほど休眠。同じ売上でも、グループの位置によって取るべき打ち手が変わる

右上に行くほど「最近もよく買う」優良な顧客、左下に行くほど「長く来ておらず頻度も低い」休眠した顧客です。チャンピオンが右上に大きく濃く陣取る一方、注目したいのは左上の領域です。ここには「頻度は高いのに、最近の購入が遠のいている」グループ、つまりかつての優良客が離れかけている層が位置します。地図にすると、こうした「見落としやすいが重要な層」の存在がはっきりします。

「いま手を打つべき層」を見つける

RFM のいちばんの価値は、優良顧客を見つけることだけでなく、「今まさに離れかけている、価値の高い顧客」を早期に見つけられる点にあります。下の図は、横軸に平均の最終購入からの経過日数、縦軸に平均購入回数をとり、円の大きさを売上貢献にしたものです。

横軸が最終購入からの経過日数、縦軸が購入回数のバブルチャート。離反の危険グループは購入回数が多いのに約4ヶ月買っておらず、売上貢献も大きいため最優先で引き留めるべきと示している
「離反の危険」は購入回数が多く売上貢献も大きいのに、約4ヶ月買っていない。最優先で引き留めたい層

このダミーデータで際立ったのが「離反の危険」グループです。購入回数は平均7回を超え、売上の1割以上を生んでいるのに、平均で約4か月も買っていません。放っておけば、そのまま休眠してしまう可能性が高い層です。逆に言えば、ここに引き留めの一手を打つことが、もっとも費用対効果の高い施策になり得ます。誰に施策を打てば本当に行動が変わるのか、という一歩進んだ考え方はアップリフトモデリングの記事で扱っています。

グループごとに打ち手を変える

グループが見えたら、それぞれに合った打ち手を割り当てます。チャンピオンには、値引きよりも特別待遇や先行案内で関係を深め、紹介やレビューの担い手になってもらう。離反の危険には、間を置かずにフォローし、復帰のきっかけとなる案内やクーポンを送る。新規・有望には、2回目の購入を後押しする。休眠・流出には、掘り起こしを試みつつ、コストはかけすぎない。同じ予算でも、相手に合わせて配分するだけで効果は大きく変わります。

打ち手を割り当てるときのコツは、「守り」と「攻め」を分けて考えることです。守りは、すでに価値のある顧客を逃さないための施策で、チャンピオンの維持や離反の危険への引き留めが当たります。攻めは、まだ価値が小さい顧客を引き上げる施策で、新規・有望の2回目購入の促進や、見込み育成への継続的な接触が当たります。多くの場合、守りのほうが投資対効果は高くなります。すでに自社を知り、買った経験のある相手のほうが、まったくの新規より動かしやすいからです。

ここで効いてくるのが、前回の LTV の考え方です。各グループの顧客が将来どれだけの利益を生むかを踏まえれば、「このグループの引き留めには1人あたり何円までかけてよいか」まで決められます。たとえば離反の危険グループの将来価値が高いとわかれば、多少コストをかけてでも個別フォローやクーポンを出す判断ができます。RFM で誰を、LTV でいくらまで。2つを組み合わせると、施策の優先順位が勘ではなく数字で語れるようになります。

RFM の限界と、AI に丸投げできない理由

便利な RFM にも限界があります。RFM は「過去にどう買ったか」だけを見る手法なので、なぜ離れたのか(商品への不満か、競合に移ったか、単にライフスタイルが変わったのか)までは教えてくれません。また、購入間隔が長い商材(家具や家電など)では、Recency の評価がそのままでは合わないこともあります。グループ分けは出発点であって、結論ではありません。

グループの切り方(何点以上をチャンピオンとするか、どの組み合わせを「離反の危険」と呼ぶか)に、唯一の正解はありません。商材の購入サイクルや事業の狙いによって、適切な線引きは変わります。ツールや AI は点数計算とグループ分けを一瞬でこなしますが、「自社にとって優良とは何か」「どの層を最優先で守るか」という線引きは、事業を理解した人間が決めるしかありません。

言い換えると、RFM は計算ではなく解釈の手法です。データが出したグループに、自社の文脈で意味を与え、打ち手につなげる。この往復こそが価値を生みます。広告や施策の効果を「本当に効いたのか」まで突き詰めて検証する考え方は、姉妹連載の広告効果検証の基礎も参考になります。

まとめ|RFM は「分けて、変える」ための地図

RFM分析は、特別なツールがなくても、購買データさえあれば今日から始められる顧客理解の第一歩です。最近・頻度・金額の3軸で顧客を点数化し、グループに分け、それぞれに合った打ち手を当てる。これだけで、「全員一律」では見えなかった優良顧客や、離れかけた重要顧客が名指しできるようになります。

次回は、その「離れかけた顧客」をデータから予測する チャーン予測(解約予測) を取り上げます。RFM が現在の状態を切り分ける道具だとすれば、チャーン予測は未来を先読みして、手遅れになる前に動くための道具です。

はてなベースは、散らばった購買・顧客データを「分けて活かせる」状態に整えるところからご支援します。RFM のような分析の前提となるデータ統合と整理、ダッシュボードでの可視化、そして分析結果を施策につなげる仕組みづくりまで。「データはあるが、優良顧客が誰かすぐに言えない」という段階からの伴走が得意です。

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