Data Cloudとは何か
Salesforce Data Cloudは、CRM内のデータだけでなく、外部のデータウェアハウスやECサイト、POSシステムなどに散在する顧客情報をリアルタイムに集約・統合するプラットフォームです。2025年のWinter ’26リリースで「Data 360」と名称が変わり、Agentforce 360の中核コンポーネントに位置づけられています。
6回の名称変更が示す進化
Data Cloudは2019年の「Customer 360 Audiences」から始まり、CDP → Genie → Data Cloud → Data 360と、6回の名称変更を重ねてきました。これは単なるブランド刷新ではありません。マーケティング部門向けの顧客データ統合ツールから、全部門が使うエンタープライズ統合データ基盤へと機能が拡張されてきた証です。
Data Cloudの主要機能
ID照合(Identity Resolution)で顧客ごとの統一プロファイルを自動構築。重複データのクレンジングも自動処理されます。
Snowflake、BigQuery、Amazon S3などの外部システムからデータを取り込み。ゼロコピー連携ならデータの物理コピーも不要です。
バッチ処理ではなくリアルタイムでデータが更新されるため、営業担当は常に最新の顧客情報をもとに対応できます。
AgentforceやEinstein GPTにコンテキストを提供。統合データをもとにした精度の高いAI応答が可能になります。
データを集約すると何が変わるのか
「データ統合」と聞くと大がかりなIT施策に思えますが、実際に現場で何が変わるのかを具体的に見ていきましょう。
営業の動きが変わる3つのポイント
取引先の情報、過去の商談履歴、サポート問い合わせ、Webサイトの閲覧履歴、メール開封状況。これらが別々のシステムに散らばっていると、営業担当は複数の画面を切り替えながら情報を探す必要があります。Data Cloudで統合すると、1つのSalesforce画面から顧客の全行動履歴をたどれるようになります。
Einstein予測スコアリングやAgentforceは、参照できるデータが多いほど精度が向上します。商談の金額と日付しかないデータと、活動履歴・メール開封・Web行動まで含むデータでは、AIが学習できるパターンの質がまったく異なります。Data Cloudでデータを統合すると、AI がより正確な優先順位付けや次のアクション提案をしてくれるようになります。
営業が持っている情報をサポート部門が知らない、マーケティングが獲得したリードの温度感が営業に伝わらない。こうした部門間のギャップは、データが分断されていることが原因です。Data Cloudは全部門に同じデータを提供するため、部門を超えた一貫性のある顧客対応が可能になります。
従来のCRM運用との違い
Snowflake、BigQuery、Amazon Redshiftなどのデータウェアハウスと、データを物理的にコピーせずに連携できる技術です。データの重複がなくなるため、ストレージコストの削減とセキュリティの向上を同時に実現できます。Salesforceは現在、Snowflake・BigQueryとの連携が一般提供(GA)済み、Databricks・Amazon Redshiftも対応を進めています。
Agentforce × Data Cloudで実現できること
Data Cloudの真価が発揮されるのが、SalesforceのAIエージェント「Agentforce」との組み合わせです。
RAGによるAI回答の高精度化
Agentforceは、Data Cloudに蓄積されたデータをRAG(Retrieval-Augmented Generation)の仕組みで参照して回答を生成します。たとえば「この取引先の過去の問い合わせ傾向は?」という質問に対して、Data Cloud上の全履歴データからコンテキストを取得し、正確な回答を返せるようになります。
具体的には、Agentforceの「Data Library」にデータソースを登録しておくと、エージェントは質問を受けた際にData Cloudから関連情報を自動で検索し、回答を生成します。管理者はノーコードでこの設定が可能です。
構造化データ(Salesforceオブジェクトのデータ)のAIグラウンディングが無料化されました。つまり、CRM内のデータをAgentforceで参照する場合、クレジットを消費しません。非構造化データ(PDF、ナレッジ記事など)のみクレジットが必要です。
営業現場での活用シーン
Agentforceに「明日のA社との商談に向けて準備すべき情報は?」と聞けば、Data Cloud上の取引履歴、サポート対応、競合情報などを横断して事前ブリーフィングを生成してくれます。
顧客からの問い合わせに対して、過去の対応履歴・契約情報・請求状況を統合的に参照。エージェントが最適な対応方針を即座に提案します。
サポート頻度の増加、利用量の低下、請求トラブルの発生など、複数のシグナルを横断的に分析し、解約の予兆を検知。担当者にアラートを出します。
料金プランと無料で始められる範囲
Data Cloudは「高額なオプション」というイメージを持たれがちですが、Enterprise Edition以上のSalesforce組織であれば、無料で利用を始められます。
無償版(Data Cloud Provisioning)でできること
Data Cloudの有償機能は消費ベースの課金です。100,000クレジットあたり約$500で、データの取り込み、ID照合、セグメンテーション処理などに消費されます。ただし、2026年2月の改定でSalesforce構造化データの取り込みとAIグラウンディングは無料化されました。無償版でも十分な検証が可能です。
セグメンテーション(特定条件で顧客を絞り込んでリスト化する機能)とアクティベーション(セグメントをMarketing Cloudなど外部ツールへ配信する機能)は無償版では利用できません。マーケティングオートメーションとの連携が目的の場合は有償版が必要です。
CRMデータの取り込み手順(実践)
ここからは、実際にSandbox環境でData Cloudを有効化し、CRMデータを取り込む手順をご紹介します。Enterprise Editionの無償枠(Data Cloud Provisioning)を使っています。
前提条件
- Salesforce Enterprise Edition以上の組織
- システム管理者アカウント
- 「Data Cloud 管理者」権限セットの付与が必要(未付与だとData Cloudのメニューが表示されません)
有効化の流れ
設定画面から「権限セット」を検索し、「Data Cloud 管理者」の権限セットをシステム管理者ユーザーに割り当てます。この権限がないとData Cloudのセットアップ画面自体がメニューに表示されません。
設定 > Data Cloud > セットアップに移動し、「使用開始」ボタンをクリックします。プロビジョニングが開始され、約30分で完了します。
Data Cloudのセットアップが完了したら、CRMデータを取り込むためのデータストリームを作成します。Data Cloud > データストリーム > 新規 と進み、「CRM」コネクタを選択します。
取り込むオブジェクトを選択しましょう。まずは以下のオブジェクトから始めるのがおすすめです。
- Account(取引先) — 企業情報の基盤
- Contact(取引先責任者) — 顧客担当者の情報
- Lead(リード) — 見込み客の情報
- Opportunity(商談) — 案件の進捗と金額
- Case(ケース) — サポート問い合わせ履歴
- Task / Event(活動) — 営業活動の履歴
取り込んだデータをData Cloud内のデータモデルオブジェクト(DMO)にマッピングします。Salesforceの標準オブジェクトには、対応する標準DMOが用意されているため、多くの場合は自動マッピングが可能です。
マッピングが完了したらデータストリームを有効化します。初回同期では、選択したオブジェクトの全レコードがData Cloudに取り込まれます。データ量によりますが、数百〜数千レコード規模であれば数分で完了します。
取り込みが完了すると、Data Cloud > データストリームの画面で各ストリームのステータスが「アクティブ」に変わり、レコード数が表示されます。
ContactとLeadのデータが取り込まれたら、ID照合(Identity Resolution)を設定します。メールアドレスや電話番号をキーに、同一人物のレコードを自動で名寄せしてくれます。これにより、リードとして入ってきた見込み客と、のちに取引先責任者として登録された情報が1つの統一プロファイルにまとまります。
- 本番環境のデータはSandboxにレプリケートされません。テスト用データを別途用意する必要があります
- 本番で設定した接続情報もSandboxには引き継がれないため、外部データソースの接続は再構成が必要です
- SandboxのData Cloudクレジット消費は、本番比20%の割引が適用されます
Data Cloud導入で押さえておくべきポイント
データモデル設計は最初が肝心
Data Cloudのデータモデルオブジェクト(DMO)は、後からの変更が影響範囲の広い作業になります。「どのデータを」「どういう粒度で」「どのDMOにマッピングするか」は、導入初期にしっかり設計しておくことが重要です。
まずはCRMデータの統合から始める
外部データウェアハウスやECサイトとの連携は魅力的ですが、最初のステップとしてはSalesforce内のCRMデータを統合するだけでも十分な効果があります。特にAgentforceとの組み合わせでは、CRMデータの統合だけで回答精度が大きく向上します。
Phase 1 — Data Cloud Provisioning(無料)を有効化し、CRMデータを取り込む
Phase 2 — Agentforceと連携し、データライブラリを設定
Phase 3 — 外部データソース(DWH、EC等)を接続
Phase 4 — 必要に応じて有償版にアップグレードし、セグメンテーション・アクティベーションを活用
接続できる外部データソース
Data Cloudは幅広いデータソースに対応しています。将来的な拡張を見据えて、全体像を把握しておくとよいでしょう。
まとめ
Salesforce Data Cloud(Data 360)は、散在する顧客データを1つのプラットフォームに統合し、営業AI・Agentforceの精度を引き上げるためのデータ基盤です。
- Data Cloudは「データを集める箱」ではなく、AIの精度を左右する基盤
- Enterprise Edition以上なら無料(Data Cloud Provisioning)で始められる
- 2026年2月の改定で、CRMデータの取り込みとAIグラウンディングが無料化
- まずはSalesforce内のCRMデータ統合から始めるのが現実的
- Agentforceと組み合わせることで、営業現場で即効性のある活用が可能
「データ統合」は大きなプロジェクトに思えますが、Data Cloudの場合はCRMコネクタで数クリック操作するだけでSalesforce内のデータを取り込めます。まずはSandbox環境で試してみて、効果を確認してから本番導入を検討するのがおすすめです。





