AIを「経理社員」のように使うと、記帳のチェックと請求書の準備を夜のうちにAIに進めさせ、その結果を朝にSlackで受け取れます。メールの返信文の下書きも、AIに作らせられます。ただ、AIに任せるのは「下書きを作り、気になるところに印を付ける」まで。取引の登録、請求書の送付、メールの送信といった取り消しにくい操作は、人が確かめてから行います。
この記事の要約

社員30人ほどの会社で、経理を1人で担当しているKさん(架空の人物です)の朝を想像してみてください。出社してパソコンを開くと、まず銀行の明細を見て、freee にまだ入っていない取引を探します。次に Slack をさかのぼって、営業から「請求書お願いします」と頼まれていた件を拾い、メールの返信を3通書いて、気づけばお昼です。
この記事では、Kさんのこうした仕事のうち、記帳のチェック、請求書の準備、朝のまとめ、メールの返信文の4つを取り上げます。この4つをAIに任せるとしたら、AIはどこまでできて、どこを人が確かめるのかを、仕事ごとに見ていきます。
AI経理社員とは、決まった時刻に動いて経理の下書きを作るプログラムのこと
この記事でいう「AI経理社員」は、人の代わりに席に座るロボットではありません。決まった時刻に動き、freee や Slack やメールの中身を読み、経理の下書きを作って人に知らせるプログラムのことです。やることは、次の3つの組み合わせです。
- 読む。freee の明細や取引、Slack の投稿、メールの受信箱を読みます
- 下書きを作る。仕訳の候補、請求書の案、朝のまとめ、返信文を作ります
- 知らせる。作った下書きと、気になるところを、Slack やメールで人に知らせます
これを動かすのに、特別な社内システムは要りません。freee会計と freee請求書には Public API(外のプログラムから freee を操作するための窓口)があり、freee のヘルプによると、どちらも全プランで使えます(2026年10月12日時点。以下、製品の仕様は同じ時点)。API を通せば、取引の作成や一覧の取得ができ、freee請求書では請求書の作成もできます。Slack や Gmail にも、同じように公式の API があります。
決まった時刻に動かすには、パソコンやサーバーの定時起動の機能を使います。たとえば Mac には launchd(ローンチディー)という、決めた時刻にプログラムを動かす機能が最初から入っていて、「毎日22時」「平日の7時半」のように時刻を指定できます。ただし、Mac がスリープ中に予定の時刻が来ると、動くのは復帰したときです。電源が切れていれば、次の予定の時刻まで動きません。毎朝決まった時刻に確実に動かしたいなら、止まらないサーバーで動かすことを考えます。
では、何でもAIにやらせればいいかというと、そうではありません。私たちが経理の方向けにお話しするときは、「自動化の設計とは、判断点の設計である」と伝えています。AIに何をさせるかより先に、どこで人が手を止めて確かめるかを決める、という意味です。これを決めないままAIを動かすと、AIの間違いをあとから探して直す仕事が増えます。

どの仕事も、下書きはAIが作り、最後に決めるのは人
ここからは、4つの仕事を1つずつ見ていきます。どの仕事も、AIが下書きを作る部分と、人が確かめる部分に分かれます。
記帳のチェック:AIが夜のうちに明細へ科目の候補を付け、Kさんが確かめた分を翌朝AIが登録する
freee には「自動で経理」という機能があり、同期した銀行口座やクレジットカードの明細をもとに帳簿を付けられます。「こういう内容の明細は、この取引として扱う」というルールを作っておけば、取引の登録まで自動にもできますし、登録はせずに入力内容の候補を出すだけにもできます。ヘルプでは前者を「登録」、後者を「推測」と呼んでいます。
AIに調べさせるのは、そのルールに当てはまらずに残った明細です。Kさんが帰ったあと、AIは過去の取引と見比べて、明細ごとに「たぶんこの科目」という候補を付けます。あわせて、同じ金額の取引が2回入っていないか、証憑(領収書や請求書の画像)が付いていない取引がないかも調べます。

ひとつ注意があります。毎晩、最新の銀行明細が freee に入っているとは限りません。freee のヘルプによると、自動の同期の間隔はプランや連携先で変わり、週の初めと終わりあたりの週2回程度が多く、月末月初は混雑で実行されないこともあります。急ぐときは「今すぐ同期」を押します。夜のチェックは、その時点で入っている明細だけを調べるものだと考えてください。
翌朝、7時半に届くまとめ(あとで説明します)を見て、Kさんが「この9件はこれでいい」と Slack で返事をすると、始業の9時にAIがその分を freee に取引として登録します(件数は仮の例です)。
ただし、freee の会計の API には、銀行の明細と取引を結び付ける消込の操作がありません。AIが登録した取引と明細を結び付ける作業は、Kさんが画面で行います。これを忘れると、あとで同じ明細からもう一度取引を登録してしまい、二重計上になります。
freee で仕訳承認フロー(入力された取引を、承認する人が確かめてから確定させる設定。使えるプランは決まっています)を使っているなら、AIが登録した取引の扱いも確かめておきます。freee のヘルプによると、API の連携を許可した人が承認の担当者として登録されていれば、AIが登録した取引は最初から「承認済み」になり、そうでなければ「申請中」で止まります(エンタープライズプランで自己承認を使わない設定にした場合などの例外はあります)。承認する立場のKさんが自分で連携を許可すると、AIが登録した取引は、Kさん以外の誰にも見られないまま承認済みで入ります。AIが登録した取引を必ず誰かに見てもらいたいなら、連携は承認の担当者ではない人のアカウントで許可します。
AIに科目を推測させないほうがいい明細もあります。編集部の見立てでは、税金・社会保険料・給与の支払は、AIに推測させず、あらかじめ決めた仕訳のひな形か、人の判断に回すのが安全です。分からない明細を、推測で経費や売上にするのもやめておきます。仮払金や仮受金でいったん置いておき、決算の前に税理士と相談して決めます。
請求書:AIが夜のうちに請求書の案を作り、Kさんが確かめた分を翌朝AIが freee で作成する
どの取引先に、何を、いくらで請求するかをまとめた管理表があれば、AIは夜のうちに未発行の行を拾い、先月の請求書と見比べて、「金額が変わった」「明細の行が増えた」といった違いに印を付けた案を作れます。
案を作るときに、インボイス(適格請求書)に書くべきことが欠けていないかもAIに調べさせられます。消費税法は、適格請求書に書くことを次の6つと決めています(第57条の4第1項)。
- 発行する事業者の名前と登録番号
- 取引の日付
- 取引の内容(軽減税率の対象ならその旨)
- 税率ごとに分けた合計額と、適用税率
- 消費税額等
- 受け取る相手の名前
ただし、夜のうちに freee で請求書を作ってしまうことはおすすめしません。freee請求書の API には、作った請求書を削除する操作がありません(取消と、取消からの復元の操作はあります)。間違えた請求書を作ると取消の記録が残り、作り直す手間がかかります。送ってしまえば、相手の手元からは消せません。
そこで、Kさんが朝に案を確かめて「8件とも作ってよし」と返事をしたら、始業の9時にAIが freee請求書で請求書を作ります。請求書を送るのは、Kさんが出来上がりをもう一度見てからです。freee請求書の API の仕様を見ると、請求書の作成はできますが、送付を実行する操作は見当たりませんでした。送付は人が行う前提で考えておきます。
朝のまとめ:AIが夜の結果と経理への依頼をまとめ、Kさんの出社前に Slack で送る
Kさんが出社する前の7時半に、AIから Slack にまとめが1通届くようにしておくと、朝いちばんの「やることを探す時間」がなくなります。たとえば、下の図のような中身です。

Slack の投稿を読ませるには、ボット(AIが使う Slack 上のアカウント)に「公開チャンネルの投稿を読む権限」を渡します(Slack での名前は channels:history。非公開チャンネルなら groups:history)。読めるのは、ボットが参加しているチャンネルだけです。読ませたいチャンネルにだけボットを入れておけば、経理に関係ない会話まで読ませずにすみます。まとめを送るには、投稿の権限(chat:write)を使います。
まとめは、全部を書き並べると読まれなくなります。Kさんの判断が要るものを上に置き、読むだけでいいものは件数だけにしておくと、5分で今日の仕事の順番を決められます。
メール:AIが問い合わせへの返信文を下書きし、Kさんが直して送る
日中、取引先から「先月の請求書の金額について確認したい」というメールが届いたとします。AIは、メールを読み、freee の請求書と入金の記録を調べて、返信文の下書きを Gmail に作ります。Kさんは下書きを開き、言い回しを少し直して送ります。
Gmail の API には、下書きを作る操作と、下書きを送る操作が別々に用意されています。AIには下書きを作る操作だけを使わせ、送る操作は使わない作りにしておけば、Kさんが読まないままメールが出ていくことはありません。ただ、下書きを作るための Gmail の権限(gmail.compose)は、実は送ることもできる権限です。「送らない」は、プログラムの作りで守っている約束で、権限の設定で鍵をかけているわけではありません。
請求書を PDF にしてメールで送る場合は、電子帳簿保存法の「電子取引」にあたります。国税庁の一問一答は、メールに添付したファイルでのやりとりも電子取引だとしていて、電子取引をしたらそのデータを保存しなければなりません(電子帳簿保存法 第7条)。受け取った請求書だけでなく、送った請求書の控えも同じです。AIにメールの下書きを作らせるなら、送った請求書をどこに保存するかまで、手順に書いておきます。
メールには、取引先の担当者の名前や連絡先といった個人情報も入っています。個人情報保護委員会は2023年6月2日の注意喚起で、事業者が個人情報を生成AIに入力するなら、利用目的の範囲内かを十分に確かめるよう求めました。本人の同意なく個人データを入力し、それが回答を作る以外の目的(学習など)に使われると、法律に違反するおそれがあるとも書いています。使うAIのサービスが、入力したデータを学習に使わない契約になっているかは、使い始める前に確かめます。
4つの仕事をAIに任せると、Kさんの仕事は「確かめて決めること」が中心になる
4つの仕事をAIに任せると、Kさんの1日はこう変わります。
| 仕事 | これまでのKさん | AIに任せたあとのKさん |
|---|---|---|
| 朝の段取り | 銀行の明細と Slack をさかのぼって、やることを探す | 届いたまとめを5分読んで、今日の仕事の順番を決める |
| 記帳 | 明細を1件ずつ見て、科目を選んで登録する | 候補を確かめて消込をし、迷う明細だけを自分で決める |
| 請求書 | 先月の請求書をコピーして、金額と明細を打ち直す | 違いに印が付いた案を確かめて、請求書を送る |
| メール | 記録を調べながら、返信を一から書く | 下書きを読んで、言い回しを直して送る |
明細を探す、打ち直す、調べるといった作業の時間が減り、そのぶんを、迷う明細の判断や取引先とのやりとり、月次の数字を見て気づいたことを経営者に伝える時間に回せます。
AI経理社員は、Kさんの代わりに経理をする仕組みではなく、Kさんの手元に下書きを積んでおく仕組みです。下書きを確かめる人がいなければ、この仕組みは回りません。
AIに任せても、人が確かめる仕事はなくならない
AIの答えには、もっともらしいけれど事実と違うもの(ハルシネーションと呼ばれます)が混ざることがあります。Claude を作っている Anthropic も、開発者向けの公式ドキュメントで、誤りを大きく減らす方法を紹介したうえで、それでも完全にはなくせないと書いています。だから、間違えたときに影響が大きいところでは、人が確かめてから次の作業に進みます。
読み違えやすいところを、2つ挙げておきます。
- 「AIに任せれば、人の確認は要らなくなる」と読まれがちです。総務省・経済産業省の AI事業者ガイドライン(第1.2版、2026年3月31日)は、AIを使う側に、想定どおり動いているかを確かめ、出力の精度とリスクを理解したうえで使うことを求めています。共通の指針として、AIに頼りすぎるリスク(自動化バイアス)への注意も書かれています。人が確かめる量は減らせても、確かめること自体はなくせません
- 「API を使えば、請求書の作成から送付まで自動にできる」と読まれがちです。先に書いたとおり、freee請求書の API で送付を実行する操作は見当たりませんでした。作った請求書を消す操作もありません。送付は人が確かめてから行います
AIに仕訳を作らせるときの統制はAIエージェントに仕訳を起票させたときの監査対応の記事で、監査で何を説明できればいいかは経理や業務にAIを入れたときの監査対応の記事でも書いています。
AIに任せる範囲は、「報告だけ」「下書きまで」「登録まで」の順に広げる
AIに経理の仕事を任せるとき、いきなり全部を任せる必要はありません。編集部では、次の3段階で広げるのがよいと考えています。

1の「報告だけ」の段階で、AIの判断がどのくらい当たるかを測ります。よく当たるようになったら2の「下書きまで」に進み、下書きを直すところがほとんどなくなった仕事だけを、3の「登録まで」任せます。メールの送信や請求書の送付のように、相手に届いてしまう操作は、3の段階に進めず人が行うと決めておくのも1つの考え方です。
どの段階でも、最初にやるのは、業務の手順書を書くことです。以前はこうした自動化にエンジニアが欠かせませんでしたが、いまは、手順書をきちんと書けるかどうかで、AIに任せられるかが決まります。「この明細のときは、この科目にする」「金額が合わないときは、人に知らせる」と言葉で書けた仕事は、AIに任せられます。言葉で書けない仕事は、まだ人が持っておく仕事です。
新しく自前のシステムを作る必要もありません。freee などの SaaS をそのまま使い、AIにはデータを読ませたり、取引や請求書を登録させたりします。freee の始め方そのものはfreee会計の導入の進め方の記事にまとめています。
はてなベースは、経理の業務にAIを組み込む支援をしています。
明日からやること
- 自分の経理の仕事を、1日の流れに沿って書き出す
- その中から、AIに「報告だけ」させる仕事を1つ選ぶ(朝のまとめ、未登録の明細の一覧など)
- その仕事の手順書を書き、人が確かめるところに印を付ける
- 使うAIのサービスが、入力したデータを学習に使わない契約になっているかを確かめる
- 送った請求書の控えの保存先を決める
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