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AI導入の依頼先はどう選ぶ?「作れる」と「使いこなせる」の差

生成AIはクラウドで誰でも契約できるようになり、AIを自前で作れることは依頼先の決め手になりにくくなりました。見るべきは、業務のどの手順にAIを入れ、誤りを誰が引き取るかまで決めて本番で動かせるかです。

AI導入の依頼先はどう選ぶ?「作れる」と「使いこなせる」の差

生成AIはクラウドで誰でも契約できるようになり、AIを自前で作れることは依頼先の決め手になりにくくなりました。見るべきは、業務のどの手順にAIを入れ、誤りを誰が引き取るかまで決めて本番で動かせるかです。

AIの導入を外部に頼もうと提案を集めると、「自社でAIを開発できます」「独自のモデルを持っています」と書いた会社と、「まず今の業務の流れを見せてください」と言う会社が並ぶことがあります。どちらも頼もしく見えるので、経営者やDX担当の方は何を基準に決めればよいか迷います。

先に答えを書いておきます。中小〜中堅企業が業務の効率化のためにAIを入れる場面では、AIを自前で作れるかどうかで依頼先を選ぶ必要は小さくなりました。文章を読み書きする生成AIは、大手のクラウドからとして誰でも契約できるからです。差がつくのは、業務のどの手順にAIを入れ、AIが間違えたときに誰が気づいて引き取るかを決め、本番で動かし続ける力です。

AIの研究や、モデルを作る技術の価値が下がったと言いたいわけではありません。新しいモデルを作る研究があるので、私たちは高い性能のモデルを手軽に使えます。ここで扱うのは、依頼する側から見て、提案書のどこを読み、打ち合わせで何を聞けば違いが分かるかです。公的な調査とAI各社の動きを確かめたうえで、依頼先を見分ける質問の例と、相談の前に社内で決めておくことを書きました。

AIを「作れる」ことが決め手になりにくくなった理由

AIと一口に言っても、中身はこの十数年で大きく変わりました。は、写真に写った物を見分ける画像認識や、売れ行きを見込む需要予測、迷惑メールの判定といった形で、すでに多くの製品に組み込まれています。総務省の令和8年版情報通信白書も、生成AIが登場する前から機械学習を業務に取り入れていた企業があったことに触れています。こうしたAIは、製品の中に入っていて当たり前の部品になりました。

いま話題の中心にあるのは生成AIです。中でも、文章を読み、書き、要約する大規模言語モデル(LLM)は、ディープラーニングの一分野であるから生まれました。ChatGPTやClaude、Geminiの中身がこれにあたります。それまでのAIと大きく違うのは、モデルを作った会社がそれを抱え込まず、APIやクラウドのサービスとして外に提供している点です。主要なクラウドの公式の説明を並べると、次のようになります。

サービス提供している会社公式の説明(要旨)
Amazon BedrockAWS生成AIのアプリやAIエージェントを本番の規模で作るための基盤。主要なAI企業の基盤モデルを数百種類使える
Microsoft Foundry ModelsMicrosoftAzure OpenAI、Anthropic、Meta、Mistralなどのモデルを含む1万を超えるモデルの一覧から選んで使える
Google Cloud 上の ClaudeGoogleAnthropicのClaudeを、サーバーの管理が要らないAPIとして提供している

表のとおり、同じ最上位のモデルを、大企業も従業員30人の会社も、クラウドの契約ひとつで呼び出せます。料金は使った量に応じて払う形が中心で、モデルを作るための計算機や研究者をそろえる必要はありません。依頼先が「独自のAI」と呼ぶものが、大手のモデルを呼び出して作られていることもあります。いまではごく普通の作り方なので、それだけで依頼先の評価を下げる必要はありません。

では、自社でモデルを作る意味はなくなったのでしょうか。白書は、イオングループが顧客データを生かすために、複数のAIエージェントが連携する仕組みを内製で開発している例を紹介しています。ダイキン工業は、空調機の専門知識に関する生成AIの精度を上げるため、独自のLLMの開発に着手したそうです。どちらも、自社だけが持つノウハウやデータが競争力の源泉になっている領域での取り組みです。請求書の照合や問い合わせへの一次回答のように、どの会社にもある業務を効率化したいなら、まず既製のモデルで試し、足りないと分かってから作ることを考えれば間に合います。

日本企業の多くは、もう生成AIを使い始めている

依頼先を選ぶ前に、日本企業がいまどこにいるかを数字で見ておきます。令和8年版情報通信白書には、2025年度に日本・米国・ドイツ・中国の企業へ行ったアンケートの結果が載っています。依頼先選びに関わる項目を抜き出しました。

調査項目(2025年度企業向け調査)日本の結果
生成AIを「積極的に活用する」「活用する領域を限定して利用する」方針の企業68.9%(前年度の調査では49.7%)
同じ方針の企業を規模別に見た割合大企業74.0%、中小企業58.1%
何らかの業務で生成AIを使っている企業86.4%(方針の設問で「わからない」と答えた企業を除く)
業務の種類ごとの利用議事録・メール作成補助が約7割、営業・販売が約6割、社内ヘルプデスクが約5割
生成AIによる業務の変革に組織として取り組んでいない企業27.0%(米国・ドイツ・中国より顕著に高い)
リスク対策として最も多い取り組み全社的な指針やガイドラインの整備(41.1%)

この表から分かるのは、生成AIを使うかどうかで迷う段階を、多くの会社がもう過ぎていることです。何らかの業務で生成AIを使う企業は86.4%にのぼり、議事録やメールの下書きでは約7割の企業が取り入れています。導入しただけでは、他社との差にはなりにくくなっています。一方で、組織として業務の変革に取り組んでいない企業も27.0%あり、使い方が個人の工夫にとどまっている会社も少なくないと読めます。

差が出ているのは、その先の使い方です。米国・ドイツ・中国では「生成AIに社内データを学習させたり、生成AIが参照可能なデータベースを構築したりしている」と答えた企業が5割を超え、日本より大幅に高い結果でした。顧客向けの製品やサービスに生成AIを組み込み、導入前に審査し、導入後も定期的に評価する体制も、他の3か国で整いつつあると白書は見ています。日本では、議事録の補助のように社内で完結する使い方が中心です。

白書は、AIの活用で先を行く企業への聞き取りから、業務の流れを作り直すときに人とAIの役割分担を重く見ていることも紹介しています。どの作業ではAIを人の判断の補助に使い、どの作業はAIに任せるかを、業務の特性と人が負うべき責任の範囲を見極めて決めるという内容です。依頼先に求めたいのは、この役割分担を依頼する側と一緒に設計できる力だと、私たちは考えています。

AIを作る会社自身が、導入を手伝う人を増やしている

依頼先の選び方を考えるうえで、2026年のAI各社の動きは参考になります。モデルを作っている当の会社が、顧客の現場に技術者を送り込む部隊を相次いで立ち上げました。こうした技術者はFDE(Forward Deployed Engineer)と呼ばれ、顧客の業務を見ながら、AIを本番で動くところまで作り込みます。

発表の日付会社発表の内容(各社の公式発表から)
2026年5月4日AnthropicBlackstone、Hellman & Friedman、Goldman Sachsと組み、中堅企業がClaudeを中核の業務に組み込むのを設計から保守まで支える新会社を立ち上げる
2026年5月11日OpenAI40億ドルを超える初期投資で「OpenAI Deployment Company」を設立。FDEが経営層や現場と一緒にAIの効果が大きい業務を探し、業務の流れを作り直す
2026年6月30日AWS10億ドルを投じてFDEの組織を新設。顧客のチームに入り、顧客のデータと手順の上で本番のAIを作り、顧客が自分で運用できる状態にして引き渡す

3社の発表を読み比べると、どこも顧客の業務に入り込み、本番まで運ぶことに資金と人を割いていました。OpenAIの発表には、FDEが経営層や現場の担当者と一緒にAIの効果が最も大きい業務を見つけ、その周りの業務の流れを作り直すという説明があります。AWSの発表は、依頼した会社のデータやに沿ってAIを作ると書いています。手順書を渡し、社員を育て、依頼した会社が自分で運用できるようにするところまでが仕事に含まれます。

最も高い性能のモデルを持つ会社でさえ、モデルを渡すだけでは顧客の業務は変わらないと見ているのでしょう。依頼する側は、この動きを依頼先選びの物差しにできます。FDEを誰がどんな形で提供しているかはFDE市場マップに、FDEに求められる力はFDEになるにはに詳しく書きました。

依頼先を見分ける7つの質問

では、提案を受けたときに何を見ればよいのでしょうか。会社案内や提案書の言葉だけでは違いが見えにくいので、最初の打ち合わせで次の質問をしてみてください。答え方を聞けば、その会社がモデルを作ることに強いのか、業務に入れて動かすことに強いのかが分かってきます。

聞くこと打ち合わせでの質問の例答えに出てきてほしいこと
業務の流れのつかみ方この業務で誰が何を見て何を判断しているかを、どうやって把握しますか現場の担当者への聞き取りや、実際の書類と画面を一緒に見る日程の提案
最初の業務の選び方候補の業務が10個あったら、最初の1つをどう選びますか件数、手間、誤りが出たときの取り返しやすさ、データの有無といった基準
誤りの引き取り方AIが間違えたら、誰がどの時点で気づきますか人が確かめる箇所、承認する人、AIを止める方法
本番に出す判断本番に出してよいかを、何で判断しますかテストに使う事例の数と合格の基準
効果の測り方効果は、いつ、何で測りますか作業時間や件数など測る項目と、測る時期と担当
データの整え方社内のデータがばらばらでも始められますかどのデータをどこから集め、誰が整えるかの段取り
本番運用と引き継ぎ試作が終わったあと、誰が運用しますか。より良いモデルが出たら乗り換えられますか運用と社内への引き継ぎ、手順書や研修が契約に入っていること。特定のモデルに縛られない作り

最初の質問への答えで、多くのことが分かります。業務を理解して入れる会社は、AIの話より先に、今の業務の流れを聞いてきます。月末の請求書の照合なら、請求書がどこから届き、誰が何と突き合わせ、金額が合わないときに誰へ確認するのか。この流れが分からないと、AIをどの手順に入れるかが決まらないからです。業務の流れを聞く前にモデルの性能や精度の数字から話し始める会社は、業務への入れ方を後回しにしているかもしれません。

2つ目と3つ目は、本番で動くかどうかを分ける質問です。最初の業務の選び方には、5つの項目で業務に点数を付ける方法があります。AIが間違えたときの扱いは、権限・承認・停止・記録として前もって決めておくものです。生成AIは事実と違う内容をもっともらしく出力することがあり、白書もこの現象()をリスクに挙げています。誤りが出る前提で、人が確かめる箇所を置けるかどうかを聞いてください。

4つ目から7つ目は、試作で終わらせないための質問です。本番に出す判断の基準は評価の設計で、効果は何を・いつ・誰が測るかで決めます。試作の段階で止まってしまう原因と、契約での防ぎ方はPoCで止まる会社とFDEで動いた会社にまとめました。特定のAI製品に縛られて身動きが取れなくなる例は、FDEの失敗パターンで取り上げています。

「作れる」会社を選んだほうがよい場面

ここまで業務を理解する力の話をしてきましたが、AIを作る力が要る場面もあります。次のような場合は、モデルを自前で作ったり、自社のデータで調整したりできる会社を候補に入れてください。

  • 自社だけが持つデータやノウハウが競争力の源泉で、それをAIに覚えさせたい場合。白書が紹介するダイキン工業の独自LLMの取り組みがこれにあたります。
  • 製造ラインの画像検査のように、汎用の生成AIでは扱えない専用の判定が要る場合。
  • 既製のモデルで試したものの、求める精度にどうしても届かなかった場合。
  • 法令や社内の規程でデータを社外のクラウドに出せず、社内のサーバーで動くモデルを選んで組み込む必要がある場合。

こうした場面でも、前の節の7つの質問はそのまま使えます。どれだけ良いモデルを作っても、業務のどの手順に入れるか、誤りを誰が引き取るかが決まっていなければ、現場では使われないからです。作る力と業務を理解する力の両方を持つ会社か、作る会社と業務に入る会社が組んだ体制かを確かめると、判断しやすくなります。

反対に、選ぶ理由が「AIを自社開発している」だけなら、一度立ち止まってみてください。独自のモデルは直せる会社が限られやすく、その会社と長く付き合う前提になる場合があります。業務の効率化が目的なら、大手のモデルを使い、業務への入れ方で勝負している会社のほうが、新しいモデルが出たときに乗り換えやすい場合もあります。

同じ業務で比べると、提案はこう変わる

違いを具体的に見るため、架空の例を1つ置きましょう。従業員100人ほどの会社が、毎月届く請求書と発注データの照合にAIを使いたいと相談したとします。AIを作れることを売りにする会社と、業務を理解して入れる会社では、提案の中身がおおよそ次のように分かれます。

提案のどこを見るかAIを作れることを売りにする提案業務を理解して入れる提案
最初に聞くこと請求書の画像が何枚あり、どの形式か請求書が届いてから支払うまで、誰が何をしているか
説明の中心文字を読み取る精度、独自モデルの性能照合のどの手順をAIに任せ、どこを人が確かめるか
誤りへの備え精度を上げて誤りを減らす金額が合わない請求書を担当者の確認待ちに回し、承認する人を決める
成果の測り方読み取りの正解率照合にかかる時間、確認待ちの件数、支払いの誤り
試作のあと精度が出たら本番へ進む本番での運用担当、手順書、社内への引き継ぎまで計画に入れる

AIを作れることを売りにする提案も、技術の面では筋が通っています。読み取りの精度が高いほど、照合の作業が楽になるのは確かです。ただ、経理の担当者が知りたいのは、月末の締めが何日早くなるか、支払いの誤りが減るかです。精度がどれだけ高くても、誤りが残っている請求書がどれなのか分からなければ、担当者は結局すべてを見直すことになります。

業務を理解して入れる提案は、AIが誤りを出す前提で組み立ててあるのが特徴です。金額が合わない請求書だけを確認待ちに回せば、担当者は全件を見る代わりに、AIが拾い上げた分だけを見ればよくなります。承認する人と止め方が決まっていれば、AIが間違えても支払いの前に止まります。業務を理解した会社とは、こうした流れを依頼する側と一緒に組み立てられる会社のことです。

依頼する前に、社内で決めておくこと

依頼先の力を見極めるには、依頼する側の準備も要ります。業務を理解する会社ほど、最初の打ち合わせで社内の事情を細かく聞いてきます。そこで答えに詰まると、良い会社を選んでも話が進みません。相談の前に、次の5つを社内で決めておくと話が早くなります。

  1. AIを入れたい業務を1つか2つに絞り、ひと月の件数と1件あたりの手間を数えておく
  2. その業務の責任者と、AIの結果を確かめる担当者を決めておく
  3. 業務で使う書類やデータが、どこにどんな形で置かれているかを書き出しておく
  4. 社外に出してはいけない情報と、クラウドに置いてよい情報の線を引いておく
  5. 締め日が何日早まる、問い合わせへの返答が何時間早まるなど、何がどれだけ変われば成功とするかを決めておく

2つ目の責任者と、5つ目の成功の基準は、経営者が決めることです。白書によると、組織として取り組んでいる日本の中小企業では「経営幹部から各部署に対して実施事項や達成目標が提示されている」という回答が最も多く、白書はトップダウンの関与が決め手になっていると分析しています。担当者に丸ごと任せず、誰が責任を持ち、何を成功とするかを経営者が言葉にしておくと、依頼先との話も具体的になります。

従業員30〜300名ほどの会社が外部に頼むべきかどうかは規模別・業務別の判断基準で、発注先に渡す依頼書の書き方は提案依頼書に書く7項目で詳しく書いています。まずは最初の業務を1つ絞り、その業務の流れを紙1枚に書き出してみてください。その紙を持って打ち合わせに行けば、相手がその流れの話から入ってくるかどうかで、依頼先の向き不向きはかなり見えてきます。

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