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最初にどの業務から AI を入れるか? 5つの項目で業務に点数を付けて選ぶ

最初の業務は、件数・手間・取り返しやすさ・データの有無・人の確認の5項目に1〜3点を付けて選びます。取り返しやすさとデータを2倍にし、合計が同じなら取り返しやすさの点数が高いほうを先にします。近いうちに手順が変わる業務や判断する人が決まっていない業務は、効果が大きく見えても採点の前に候補から外します。

最初にどの業務から AI を入れるか? 5つの項目で業務に点数を付けて選ぶ

最初の業務は、件数・手間・取り返しやすさ・データの有無・人の確認の5項目に1〜3点を付けて選びます。取り返しやすさとデータを2倍にし、合計が同じなら取り返しやすさの点数が高いほうを先にします。近いうちに手順が変わる業務や判断する人が決まっていない業務は、効果が大きく見えても採点の前に候補から外します。

経理の請求書づくり、営業の見積、問い合わせへの一次回答、会議の議事録。AI を使えそうな業務を社内で挙げてもらうと、20も30も候補が出てきます。経営者は「どれから始めるか」を決めなければなりませんが、声の大きい部署の業務や、展示会で見た事例に近い業務から始めてしまうことが少なくありません。最初の業務で成果が見えないと、2つ目に進む予算も現場の協力も得にくくなります。

この記事では、候補の業務に点数を付けて最初の1つを選ぶ方法を書きます。会社として FDE(顧客の現場に入り、業務に合う仕組みを本番稼働まで作る技術者)に頼むかどうかは、規模別・業務別の判断の記事にまとめました。選んだ業務を「入力・判断・出力」に細かく分ける作業は、着任1週間の記事で扱っています。この記事で扱うのは、その間にある「候補の中から最初の1つを決める」段階です。

登場するのは、AI 導入を任されて社内の窓口になる「推進担当」、業務を日々受け持つ「現場の担当者」、その業務の結果に責任を持つ「部門責任者」、最後に決める「経営者」の4者です。外部の FDE が入る会社では、FDE が推進担当と一緒に採点の進行役を受け持ちます。

最初の業務は、件数・1件あたりの手間・誤りが出たときの取り返しやすさ・データの有無・人が確かめられるかの5項目に、1点から3点を付けて選びます。最初の1つでは成果の大きさよりも、失敗しても取り返せることとデータがそろっていることを重く見るので、取り返しやすさとデータの2項目は点数を2倍にして合計します。合計が同じなら、取り返しやすさの点数が高いほうを先にします。近いうちに手順が変わる業務や、判断する人が決まっていない業務は、効果が大きく見えても採点の前に候補から外します。

この記事の要約
業務の採点表。件数、1件あたりの手間、誤りが出たときの取り返しやすさ、データの有無、人が確かめられるかの5項目を、それぞれ1点から3点で付ける。取り返しやすさとデータの有無は2倍にして合計し、満点は21点。
最初の業務を選ぶ採点表。5項目に1〜3点を付け、2項目は2倍にして合計します。

最初の業務選びでつまずくのは、効果の大きさだけで選ぶとき

候補を並べると、多くの会社は「いちばん時間がかかっている業務」を最初に選びます。月末に経理が3日かける締めの作業や、営業部全員が毎日書く日報です。効果が大きいのは確かですが、最初の1つとしては難しいことがよくあります。締めの作業は判断の分かれ目が多く、AI の誤りを見落とすとそのまま決算の数字に入ります。日報は書く人ごとに形式が違い、AI の出力と比べる手本になる過去の例がそろっていません。

総務省の令和8年版 情報通信白書は、AI の導入で効果を出す段階を説明するなかで、日清食品グループの例を紹介しています。同社は生成 AI の活用効果を見込める対象業務を部門ごとに選び、プロンプト(AI への指示文)のひな形を作り、効果を測る取り組みを少しずつ社内に広げました。その結果、社内の生成 AI の利用率が直近で7割を超えたといいます。全社で一度に始めず、業務を選んでから広げています。

最初の業務を選ぶとき、もう1つ見落とされやすいのが、効果を数字で示せるかどうかです。情報処理推進機構(IPA)のDX動向2025は、DX に取り組む企業に、DX による成果を把握するための指標を設定しているかを尋ねています。設定していると答えた日本企業は27.4%で、米国(89.8%)やドイツ(82.7%)を大きく下回りました(図表1-25)。最初の業務で効果を数字で示せないと、90日目に続けるかを決める場で、経営者は「現場が楽になったと言っている」以外の材料を持てません。件数と1件あたりの時間を数えられる業務を選んでおけば、その材料が最初からそろいます。測り方は効果測定の記事に書きました。

採点の前に、候補を1人の担当者が1回で終える作業の大きさにそろえる

候補の一覧は、まず業務の大きさをそろえて作ります。大きさがばらばらだと、点数を比べられません。「月末の締め」は入金の消し込み、残高の突き合わせ、仕訳の確認といった作業の集まりで、「経費精算の規程チェック」は1枚の申請を見る1回の作業です。筆者は、1人の担当者が1回の作業で終える大きさに切ってから一覧に載せることを勧めます。「締め」のように大きな業務は、中の作業を一つずつ候補にします。

一覧の各行には、業務の名前と一緒に、何を受け取って何を作るかを1行で書いておきます。たとえば「取引の記録を受け取り、請求書の下書きを作る」です。これがあると、次の節でデータや人の確認の点数を付けるときに、何のデータを見ればよいかが決まります。細かく分ける作業は、最初の1つが決まってから着任1週間の記事の Day2 の進め方で行えば足ります。

5つの項目に1〜3点を付け、2項目を2倍にして合計する

採点は5つの項目で行います。どの項目も1点から3点の3段階にしました。細かい点数を付けようとすると、点数の付け方ばかりに時間を取られて、話が先に進まなくなるからです。どの項目も、点数が高いほど最初の1つに向いています。項目と点数の目安は次のとおりです。

項目1点2点3点誰が付けるか
件数(ひと月に何件あるか)20件未満20件以上200件未満200件以上現場の担当者
1件あたりの手間5分未満5分以上30分未満30分以上現場の担当者
誤りが出たときの取り返しやすさ(2倍)誤りが見落とされやすく、社外・お金・個人情報にそのまま届く人が確かめてから社外に出す(見落とせば社外に届く)社内で止まり、担当者が自分で直せる部門責任者
データの有無(2倍)紙だけ、または人の頭の中電子データはあるが、元の資料と正しい結果が組でそろっていない元の資料と、それを正しく処理した結果の組が20件以上ある(20件未満なら2点)推進担当
人が確かめられるか確かめる人がいない、または作るのと同じくらい時間がかかる確かめる人はいるが、手が空いていない確かめる人が決まっていて、作るより速く確かめられる部門責任者

データの有無で見るのは、組がそろっているかです。請求書の下書きなら、元になった取引の記録と、それをもとに正しく作られた請求書が組で残っている必要があります。この組があれば、AI が作った下書きを正しい請求書と比べて、合っているかを確かめられます。完成した請求書の PDF が何百件あっても、元の記録とつながっていなければ2点です。

表の区切りの数字は筆者の目安で、統計や相場ではありません。この記事に出てくる点数や件数の例のうち、出典を書いていないものはすべて筆者の目安です。件数の区切りを月20件にしたのは、それより少ない業務は AI に任せても、浮く時間がひと月に数時間ほどにとどまりやすいからです。正しい結果の組を20件としたのは、AI の出力を比べて確かめる見本として、最低限ほしい数だからです。月に1回しかない業務でも1件に丸1日かかるなら、件数は1点、手間は3点として扱います。自社の業務の規模に合わせて区切りを動かしてかまいませんが、候補はすべて同じ区切りで採点してください。

合計は、件数と手間と人の確認をそのまま足し、取り返しやすさとデータの有無の2項目は2倍にして足します。満点は21点です。この2項目を重くするのは、最初の業務に求めるものが、効果の大きさよりも「90日のうちに本番まで持っていけるか」だからです。誤りが見落とされるとすぐ社外に出る業務では、人が何度も確かめる必要があり、その手間で浮いた時間が消えてしまいます。データがなければ、AI の出力が正しいかを確かめる基準を作るところから始めることになり、最初の数週間がそれで終わります。

2倍にする項目は、会社の事情で変えてもかまいません。たとえば人手が足りず、効果をすぐに出したい会社なら、手間を2倍にする選び方もあります。ただし重みを変えるのは採点を始める前にしてください。採点したあとに重みを動かすと、最初から選びたかった業務の点数を上げるための調整になります。

点数は、3者がそろう1時間の会議で付ける

採点は、推進担当が1人で机の上で進めると外れます。件数と手間は現場の担当者でなければ分からず、取り返しやすさは部門責任者でなければ判断できないからです。筆者は、候補の一覧ができたら、推進担当・現場の担当者・部門責任者の3者で1時間の会議を開き、次の順番で進めることを勧めます。経営者の同席は任意です。

  1. 会議の前に、推進担当が候補の業務の一覧を作り、各業務の現場の担当者に件数と1件あたりの手間を書き込んでもらいます。数えるのはひと月分の記録からで、記録がなければ担当者に1週間だけ数えてもらえば足ります。このとき、後の節で挙げる条件のうち、手順やシステムが近いうちに変わる業務と、判断する人が決まっていない業務は、一覧から先に外しておきます。
  2. 会議の最初の20分で、推進担当がデータの有無を説明します。どこにどんな形でデータがあり、元の資料と正しい結果の組を何件取り出せるかが、データの点数の根拠です。
  3. 次の20分で、部門責任者が取り返しやすさと人の確認の点数を付けます。AI が間違った下書きを出したら誰が最初に気づくか、社外に届くまでに何人の目を通るか。実際にあった1件を例に話すと、点数がぶれません。
  4. 最後の20分は、合計を出したうえで、上位3つの業務が残りの「後に回す条件」に当たらないかを確かめる時間です。
  5. 推進担当が会議の結果を経営者に渡し、経営者が最初の1つを決めます。

この順番にするのは、点数を付ける人と決める人を分けるためです。経営者が同席する場合も、点数付けの最中に意見を言うと、3者の採点がその意見に寄っていきます。経営者が会議に出ない場合は、採点表と、上位3つを選んだ理由と、現場が心配している点を1枚にまとめて渡します。経営者が別の業務を選びたいときは、どの項目の点数が違うと考えるのかを聞き、その項目だけ付け直します。

横軸に件数と手間の点数の合計、縦軸に取り返しやすさとデータの点数をそれぞれ2倍して足したものを取った図。右上ほど最初の1つに向く。架空の6業務を置いている。人の確認の点数は含まない。
件数と手間(横)、取り返しやすさとデータ(縦)で並べた例。人の確認の点数は含まないので、表の合計の順位とは一部ずれます。丸印は架空の業務です。

架空の6業務で採点すると、最初に来るのは請求書の下書き

従業員80名ほどの卸売の会社を想定して、候補の6業務に点数を付けてみます。会社も点数もすべて架空で、採点の進め方を見せるための例です。比べやすくするため、月末の締めは1つの業務のまま残しました。

業務件数手間取り返しやすさ(×2)データ(×2)人の確認合計
請求書の下書き322(4)3(6)318
経費精算の規程チェック313(6)2(4)317
会議の議事録223(6)2(4)216
見積書の下書き232(4)2(4)215
月末の締め作業132(4)2(4)214
問い合わせへの一次回答321(2)2(4)112

表のいちばん上に来たのは請求書の下書きです。毎月数百件あり、担当者が1件ずつ取引の記録から作っていて、取引の記録と正しく作った請求書が組で残っています。AI が作るのは下書きまでで、経理の担当者が確かめてから送ります。それでも見落とせば取引先に届くので、取り返しやすさは2点にしました。

1位との差は1点です。2位の経費精算の規程チェックは、件数は多いものの1件の手間が小さく、浮く時間は請求書より少なくなります。一方で誤りは社内で止まり、担当者が自分で直せるので、取り返しやすさは3点です。取り返しやすさとデータに加えて手間も2倍にする選び方で付け直すと、請求書の下書きは20点で1位のままです。2位は経費精算・会議の議事録・見積書の下書きの3つが18点で並び、次の節の決め方で、取り返しやすさが3点の経費精算と議事録が見積書より先になります。

3位の会議の議事録は、完成した議事録は電子データで残っているものの、元になった会議の録音や文字起こしが残っていません。AI の出力と比べる組が作れないので、データは2点です。最下位の問い合わせへの一次回答は、AI が顧客に直接答える形を想定しました。誤りが見落とされたまま顧客に届き、送る前に確かめる人もいません。取り返しやすさと人の確認は、どちらも1点です。担当者が確かめてから送る形に変えれば、2項目とも2点になり、合計は15点に上がります。

5位の月末の締め作業は、手間の点数が最も高く、経営者がいちばん楽にしたいと考えがちな業務です。それでも件数は月に1回で、締めの全体を確かめられる人は経理の責任者1人しかおらず、その責任者は月末に手が空きません。最初の1つに選ぶのは見送ります。請求書の下書きを本番で回し、経理の担当者が AI の出力を確かめることに慣れてから、締めの中の作業を一つずつ候補に戻すのが無理のない順番です。

合計が同じなら、取り返しやすいほうを先にする

採点すると、合計が同じになる業務が必ず出てきます。合計が同じときは、次の順番で比べます。

  1. 取り返しやすさの点数が高いほうを先にします。
  2. それも同じなら、効果を数字で測りやすいほうを先にします。始める前に、1か月分の件数と作業時間を記録できる業務のことです。
  3. それも同じなら、業務を1人で抱えている担当者がいるほうを先にします。その人が休むと止まる業務は、AI を入れる過程で手順が書き残されるだけでも、会社の助けになります。

3つ目の基準は、点数には表れない理由で入れています。90日のロードマップの記事で書いたとおり、最初の業務が終わるころには、FDE や推進担当が離れたあとも現場で業務を回し続ける人を決めておく必要があります。このシリーズでは、この役を「Echo 役」と呼んでいます(選び方と育て方はEcho 役の記事)。1人で抱えている業務を選ぶと、その担当者が Echo 役の第一候補になり、引き継ぎの道筋が最初から見えます。

点数が高くても後に回す、6つの条件

合計点が上位でも、次のどれかに当たる業務は最初の1つにしません。上の2つは一覧を作る段階で外し、残りの4つは上位3つの業務について1つずつ確かめます。

後に回す条件後に回す理由いつ見直すか
業務の手順や使っているシステムが、半年以内に変わる予定があるAI に合わせて作った手順が、使い始めた直後に使えなくなる手順が変わったあとの最初の1か月を終えてから
誤りが出たときに判断する人(部門責任者)が決まっていないAI を止めるか、取引先に何と伝えるかを決める人がいない判断する人を決めてから
データを管理している他部署や取引先から、使う許可をもらっていない使い始めたあとで、データを使えなくなる管理している側と、使う範囲を文書で決めてから
個人情報を扱うのに、社内の扱いのルールが決まっていないAI に何を入れてよいかを、現場の担当者が判断できない社内の AI 利用のルールを決めてから
法令や社内の決まりで人が判断すると決まっているのに、AI に最後の判断まで任せる形になっているAI が出せるのは判断の材料までで、効果の見込みが変わるAI に任せるのを材料づくりまでに絞って、採点し直す
繁忙期の真っ最中で、現場の担当者に確認の時間がない試作を触って直してもらう時間が取れない繁忙期が明けてから

このうち特によく当てはまるのは、最初の2つです。基幹システムの入れ替えが半年以内に控えている業務や、部門の再編で担当部長が決まっていない業務は、効果が大きく見えても、今は待つほうが結果として早く現場で使えるようになります。後に回した業務は採点の対象から外し、一覧の下に「後に回した業務」として残します。「いつ見直すか」の列に書いた時期が来たら、もう一度採点の候補に戻します。

個人情報を扱う業務や、人の判断が決まりで求められる業務も、AI に任せられます。後に回すのは、最初の業務で AI の出力を人が確かめる手順と、誤りが出たときに止める手順を一度回してからのほうが、安全に進められるからです。AI の出力の合否を誰がどう決めるかは、評価設計の記事にまとめました。

採点のあと、選んだ業務で最初の1週間に確かめること

経営者が最初の1つを決めたら、点数を付けたときの前提が本当に合っているかを、最初の1週間で確かめます。採点の会議で付けた点数は、記録と記憶をもとにした見込みだからです。外れることはあります。

  • 件数と手間を実際に1週間数えて、採点に使った数字と大きくずれていないか。
  • 元の資料と正しい結果の組が、本当に20件以上、電子データで取り出せるか。
  • AI の出力を確かめる人が、毎日その時間を取れるか。
  • 間違いが見つかったときに、誰の判断で AI を止めるかが決まっているか。

どれかが大きく外れていたら、その業務の点数を付け直し、2位の業務と比べ直します。最初の1週間で業務を替えれば、90日の途中で替えるよりずっと小さな手戻りで済みます。選んだ業務を入力・判断・出力に分けて、人に頼っている判断に印を付ける作業は、着任1週間の記事の Day2 の進め方がそのまま使えます。

採点表は、最初の1つを選んだあとも捨てずに残しておいてください。最初の業務が本番に入り、90日目に続けるかを決めたら、残りの候補をもう一度採点します。1つ目の業務でデータの整え方や人の確認の手順が身につくと、データや人の確認の点数が上がる業務が出てきます。2つ目は、その時点の点数で選び直すのが、筆者の勧める進め方です。

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最初にどの業務から AI を入れるか、一緒に採点します

候補の業務の一覧づくりから、件数と手間の数え方、誤りの影響とデータの点数付け、後に回す条件の確認までを、推進担当と現場の担当者のみなさんと一緒に進めます。採点表の形で経営者に渡せるところまでまとめます。

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