この記事のポイント
2026年5月にリリースされたMicrosoft 365 E7(別名Frontier Suite)には、Copilot Coworkという「長時間・多工程ワークフロー実行エージェント」が含まれます。「〇〇してほしい」と指示すれば、Teams・Outlook・Word・Excel・SharePointを横断して数分〜数時間のバックグラウンドタスクを自律実行します。料金は1人あたり月額約1.5万円(99ドル)で、Copilotを個別に追加購入するより17%コストを抑えられます。
Copilotは「答えるAI」から「動くAI」へ
Microsoft Copilotといえば、WordやExcelで文章を生成したり、Teamsの会議を要約したりするAIツールとして知られています。2023年末から2025年にかけては「ChatGPTのMicrosoft版」として認識されていた面が強く、「聞けば答えてくれる便利なアシスタント」という位置づけでした。
しかし2026年5月に正式リリースされたMicrosoft 365 E7(コードネーム:Frontier Suite)に含まれるCopilot Coworkは、この位置づけを根本から変えます。Copilot Coworkは「答える」のではなく「動く」AIです。「来週の取締役会に向けた事業報告書を作成して」と指示すると、Copilot CoworkはTeamsの過去の議論を探し、Excelの財務データを参照し、SharePointの既存テンプレートを活用して、Wordで報告書の草案を作成するまでの工程を自律的に実行します。担当者は完成した草案を確認・修正するだけです。

この「指示したら、あとはAIが動く」という体験が、仕事の委託の概念を変えます。これまでの仕事の委託は「人から人へ」が前提でした。Copilot Coworkは、定型的・反復的な多工程タスクについて「人からAIへ」の委託を現実にします。
Microsoft 365 E7とは——E5 + Copilot + Agent 365 + Entraの統合パッケージ
Microsoft 365 E7(Frontier Suite)は2026年5月1日に正式提供(GA)が開始されました。価格は1ユーザーあたり月額99ドルで、日本円に換算すると約1万5,000円(1ドル150円換算)です。
E7が特徴的なのは、これまで個別に契約する必要があった複数の製品・機能が1つのライセンスにまとまっている点です。具体的には、Microsoft 365 E5(Officeアプリ+クラウドサービスの最上位プラン)、Copilot(AIアシスタント機能)、Agent 365(AIエージェント管理基盤)、Entra Suite(ID・アクセス管理ツール群)が一体化しています。これらを個別に購入する場合と比べて、17%コストを抑えられると発表されています。
| コンポーネント | 主な機能 |
|---|---|
| Microsoft 365 E5 | Word・Excel・Teams・SharePoint・Exchange・Defender(セキュリティ)などの全機能 |
| Copilot | AIアシスタント・会議要約・文書生成・メール下書きなど |
| Copilot Cowork | 長時間・多工程タスクの自律実行エージェント(Anthropic Claude搭載) |
| Agent 365 | 社内AIエージェント全体の管理・監視・リスク制御 |
| Entra Suite | ID管理・多要素認証・条件付きアクセス・ガバナンス |
注目すべきは、Copilot CoworkにAnthropic Claudeが搭載されている点です。MicrosoftはOpenAIとの関係が有名ですが、E7ではAnthropicのClaude(高い推論能力と長文処理を得意とするAIモデル)を活用することで、より複雑な多工程タスクに対応できる設計にしています。
Copilot Coworkの実務活用——週次報告書・会議フォロー・契約レビュー
Copilot Coworkが「AI同僚」と呼ばれる理由は、単に1つの作業をするだけでなく、複数のツールをまたいで文脈を保ちながら複数工程の仕事をこなせる点にあります。実際の業務シーンで考えてみます。
週次報告書の自動作成
毎週金曜日に全部門がマネージャーに提出する週次報告書の作成は、担当者にとって負荷の高い作業です。Teamsのチャット履歴から今週の進捗を拾い、Plannerやプロジェクト管理ツールのタスク状況を確認し、数値実績はExcelから引用して、所定のWordテンプレートに落とし込む——この作業が毎週1〜2時間かかっているチームは少なくありません。
Copilot Coworkに「今週分の週次報告書を作成して。Teams・Planner・Excelのデータを参照して。フォーマットは先週のファイルに合わせて」と指示すれば、バックグラウンドで各ツールにアクセスして情報を収集し、報告書の草案を生成します。担当者は生成された草案を確認して、追加コメントを入れるだけです。
会議後のフォローアップ自動化
重要な商談や社内会議の後は、議事録の作成・アクションアイテムの整理・参加者へのフォローメールの送信という一連の作業が発生します。Teams会議の録画と文字起こしを自動で要約する機能はすでにCopilotに実装されていますが、Copilot Coworkはそこからさらに一歩進んで「フォローアップまで」を自律実行します。
「今日のABC社との商談のフォローアップを進めて。議事録から各担当者へのアクションアイテムを抽出して、それぞれ担当者にOutlookでメールを送って。また、商談内容をSalesforceの案件情報に更新して」という指示が可能です。Copilot Coworkは会議の文字起こしを解析し、誰が何を担当するかを抽出し、個別メールを起草・送信し、CRMシステムへの記録も行います。これで30〜60分かかっていた会議後処理が自動化されます。
契約書レビューと担当者への自動割り当て
法務・総務担当者にとって、外部から届く契約書の初期確認と担当者割り当ては手間のかかる作業です。Copilot CoworkをSharePointに届いた契約書のフォルダと連携させ「新着契約書を確認して。契約種別を分類して、リスクレベルを判定して、適切な担当者に割り当ててTeamsで通知して」という指示を出せば、初期振り分け作業が自動化されます。
もちろん最終的な契約の意思決定は人間が行うことが前提ですが、「どの担当者の目を通すべきか」の仕分けと「優先度の判断」という、現在は人の手を使っている部分を補助できます。
ヒューマン・イン・ザ・ループ——AIに任せながらも人間が監督する設計
Copilot Coworkの重要な設計思想の一つが「ヒューマン・イン・ザ・ループ(人間が監督に介在できる構造)」です。AIが自律的に動くといっても、すべてを無条件で任せるわけではありません。
Copilot Coworkはタスクの実行中に「チェックポイント」を設けており、人間が確認・修正・中断できるタイミングを用意しています。例えば「取締役会向け報告書の作成」を指示した場合、「財務データの参照が完了しました。数値に間違いはありませんか」「報告書の構成案ができました。このまま本文を作成してよいですか」といった確認を挟みながら作業を進めます。
これにより「AIが勝手にメールを大量送信した」「間違った情報を報告書に書いた」というリスクを最小化しながら、多工程タスクの自動化を実現しています。AIに委託しながらも、重要な判断ポイントでは人間が確認する——このバランスが、ビジネス実務での安全な活用を可能にします。
Agent 365——「シャドーAI」を管理する組織のコントロールタワー
E7に含まれるAgent 365は、社内で使われるAIエージェント全体を管理する「コントロールプレーン(管理基盤)」です。AIエージェントの活用が広がると同時に顕在化してきた「シャドーAI問題」に対応するために設計されています。
シャドーAIとは、情報システム部門や経営層が把握していないAIエージェントが社内で使われている状態を指します。たとえば「個人がサードパーティのAIエージェントを入れて、会社のデータを外部に送信していた」というケースは、情報漏洩リスクだけでなく、コンプライアンス(法令や社内規程の遵守)の観点からも深刻な問題です。
Agent 365は、社内で稼働しているエージェントの数・アクティブユーザー数・リスクシグナルをダッシュボードで一元管理します。未承認のAIエージェントを検出してブロックする機能も備えており、AWS・Google Cloudなどのマルチクラウド環境で動くエージェントも管理対象に含められます。HubSpot・Notion・Moody'sなどのフェデレーテッドコネクタ(外部サービスとの連携機能)も利用可能で、Microsoft以外のツールとの連携を管理下に置けます。
大企業では「どの部署が何のAIを使っているか把握していない」という状況がすでに起きています。Agent 365は、AIガバナンス(AIの利用を組織として適切に管理する仕組み)の基盤として、これからAIを本格活用しようとする企業が整備すべきインフラの一つになっています。
E7の価格とROI——1人あたり月約1.5万円をどう考えるか
Microsoft 365 E7の月額99ドル(約1万5,000円)という価格をどう評価するかは、現在使っているプランと比較することで判断しやすくなります。
現在Microsoft 365 E3(月額36ドル前後)を使っている場合、E7への移行は1人あたり月額60〜70ドルの追加コストになります。ただし、E7にはCopilot(単体で月額30ドル前後)、Entra Suite(月額12ドル前後)が含まれているため、これらを個別に購入している場合は、むしろコストが下がるケースもあります。
費用対効果を考えるとき、「週次報告書の作成に週2時間かかっていた担当者が30分に短縮された」場合の節約工数は、月に6時間。時給換算で考えれば、中堅社員1人分のコストに対して十分なリターンが出る計算になります。さらに、会議後フォローアップ・契約書初期確認・データ集計・社内Q&A対応といった業務も合わせると、E7のコストを正当化できる企業は多いでしょう。
一方、重要なのは「ツールを入れただけでは効果が出ない」という事実です。Copilot Coworkを有効活用するためには、社内の業務フローを整理して「どのタスクをCopilotに委託できるか」を設計する工程が不可欠です。ツール導入と並行して、利用ガイドラインの整備や担当者向けのトレーニングも必要になります。
「AI同僚」を活かすための社内設計
Copilot Coworkが「AI同僚」として機能するためには、人間の同僚に仕事を任せるときと同じように「何を、どこまで、どんな条件で任せるか」を明確にする必要があります。新入社員に業務を委託するとき、仕事の手順・ルール・例外対応のフローを教えるのと同じ発想です。
実際の導入で効果が出やすい業務の特徴は「手順が定まっている」「複数のツールをまたいでいる」「繰り返し発生する」という3点が揃っていることです。逆に「状況判断が多く含まれる」「例外が頻発する」「対外的に最終的な判断が必要」という業務は、完全に自動化するよりも「AIが下準備して人間が判断する」という補助的な使い方の方が適しています。
はてなベースでは、Microsoft 365 Copilot・Copilot Coworkの活用設計から、社内ガイドラインの策定、担当者向けトレーニングまで、導入後の定着も含めた支援を行っています。E7の試験導入や、現行プランとのコスト比較を含む検討段階からのご相談もお気軽にどうぞ。