チームで Claude Code や Cursor を使っていると、同じ調査が何度も繰り返されます。誰かが半日かけて「この画面の金額はどのテーブルから来ているのか」を追い、翌週に別の人のエージェントが同じ調査をゼロからやり直す。調べるのに使ったの分だけ、毎回お金と時間が消えます。
これを解く道具が「エージェント向けの共有メモリ」です。一人の調査結果を要約として残し、次に同じことを聞かれたエージェントがそれを読む。理屈は分かりやすいのですが、選ぶ段になると迷います。どのツールも試験の点数を掲げていて、数字だけを見るとどれも良さそうに読めるためです。
そこで今回は、数字を判断材料から外しました。かわりに、各リポジトリのライセンスファイル、README、GitHub の記録という、誰でも同じものを確認できる情報だけで 6 種を比べています。
cognee が第一候補、Graphiti が次点です。判断はベンチマークの数値でしません。mem0 は README 自身が「掲げている数値は有料版のもので、OSS 版では同じ数値にならない」と認めており、この分野の公表値は再現しないことが知られています。見るべきはライセンス、無料で共有サーバーを立てられるか、記録の出典をたどれるか、効果を測れるかの 4 点です。効果の測定は「役に立ったかの反応」と「省けたトークン数」の 2 つで、前者を持つのは cognee だけ、後者は 6 種のどれも持っていません。後者は自分で足すことになります。
この記事の要約
この記事の調べ方
スター数・ライセンス・最終更新日は 2026 年 9 月 23 日(日本時間)に GitHub の API から取得しました。各ツールの動作に関する記述は、各リポジトリの README、LICENSE、リポジトリ内のファイル構成から取っています。作者や競合が書いた紹介記事は根拠に使っていません。実際に 6 種を動かして速度や精度を測ってはいないので、本記事は設計とライセンスの比較です。
選ぶときに見るのは 4 点だけ
この分野の製品紹介は「記憶」「文脈」「長期記憶」といった言葉が並び、どれも同じことを言っているように読めます。会社として導入を決めるときに効いてくるのは、次の点です。
| 見る点 | なぜ効くか | 確認の仕方 |
|---|---|---|
| ライセンス | 自社が販売する製品に組み込めるかが決まる。社内利用だけなら緩い。 | リポジトリの LICENSE ファイルを読む |
| 無料で共有サーバーを立てられるか | 個人のパソコンに閉じる作りだと、そもそも目的を果たさない | 自前で動かせるか、共有が有料プランの説明に入っていないかを読む |
| 記録の出典をたどれるか | 半年後に「この要約は何を読んで書かれたのか」が追えないと、古い記録を信じて間違える | 元データへの参照を持つ設計かを README で確認する |
| 効果を測れるか | 役に立ったかの反応と、省けたトークン数の 2 つ。後者が無いと、入れた意味があったかを誰も判断できない。 | 反応を戻す経路と、節約量を記録する仕組みがあるかを見る |
4 点目を入れたのには理由があります。以前、コードをグラフ化してエージェントに使わせる Graphify というツールを自社の業務システムで実測したところ、宣伝とは逆に入力トークンが増えていました。測る仕組みが無かったために、実際に測るまで誰も気づいていませんでした。くわしくはGraphify を 30 回実測した記事に書いています。

6 種の一覧
いずれも 2026 年 9 月 23 日(日本時間)時点の値です。「MCP」は Claude Code などから呼び出すための接続口で、仕組みはMCP の解説記事にまとめています。
| 名前 | ライセンス | スター | MCP の提供 | 無料で共有サーバー | 出典への遡り(README の記述) | 古い記録の扱い(README の記述) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| mem0 | Apache-2.0 | 65,840 | 同梱(プラグイン形式) | 立てられる | 記述なし | 上書きせず積み上がる |
| Graphiti | Apache-2.0 | 31,081 | 同梱 | 立てられる | 元データ(エピソード)まで遡れる | 自動で無効化。削除はしない。 |
| cognee | Apache-2.0 | 30,917 | 同梱 | 立てられる | 検索で元の文章をそのまま返せる | 手動で削除。役に立ったかの反応で順位が変わる。 |
| supermemory | MIT | 30,823 | 同梱 | 立てられる | 記述なし | 期限切れを忘れ、矛盾を処理すると記載 |
| Letta | Apache-2.0 | 24,846 | このリポジトリでは開発していない | 判断できない | 判断できない | 判断できない |
| basic-memory | AGPL-3.0 | 4,022 | 同梱 | 有料プランのみ | 記述なし(記録は Markdown ファイル) | 記述なし |
用語メモ|ライセンスの違い
と は、自社製品への組み込みに支障がありません。は扱いが別で、社内で完結させるなら問題ありませんが、顧客向けのサービスに組み込む場合は法務の確認が要ります。
それぞれの中身
cognee は、やりたいことの説明がそのまま書いてある
README に「セッションで得た有用な学びを、別のセッションが取り出せる永続的な知識に蒸留する」とあります。冒頭の「同じ調査を繰り返さない」という目的に、そのまま対応する説明です。文書・会話・チケット・コード・エージェントの作業を 1 つの共有メモリに集める使い方を「Company Brain」と呼んでいます。
実務で効くのは、始めるのにお金が要らない点です。OpenAI や Anthropic の契約が無くても、手元のと抽出モデルだけで動きます。試して合わなければ捨てる、という判断がしやすくなります。
検索したときに、生成 AI に答えを作らせず、元の文章をそのまま返す経路も用意されています。要約が信用できるかを人が確かめたいときに効きます。検索した記録が役に立ったかどうかを戻すと、以後その記録の出やすさが変わる仕組みもあります。学術論文(arXiv 2505.24478)も公開されています。
Graphiti は、事実に有効期限を持たせる
Zep という会社が作っているです。ほかと違うのは、事実ごとに「いつから正しくなり、いつ置き換わったか」の期間を持つところです。README の例では「ケンドラはアディダスの靴が好き(2026 年 3 月時点)」という持ち方をします。
共有メモリで一番こわいのは、古い記録を自信を持って返されることです。担当者やテーブルの構造が変わったあとも古い要約が残っていると、エージェントはそれを正しい答えとして返します。Graphiti はその事実を無効にして、いつまで正しかったかを残します。
もう 1 つ、すべての事実が「エピソード」と呼ばれる元データまで遡れます。出典をたどれるかという点では、6 種の中で最もはっきりしています。
mem0 はスター数が最も多い一方、公表値の読み方に注意が要る
スター数は 6 万を超え、6 種の中では最多です。2026 年 4 月に方式を変え、1 回の呼び出しで事実を抜き出すだけにして、更新も削除もしない作りになりました。記録は上書きされずに積み上がります。検索は意味・キーワード・固有名の 3 系統を並行で走らせて結果を統合します。
注意すべき点が README に書かれています。掲げられている数値について、次のように断られています。
これらのスコアは Mem0 のマネージドサービス(有料の提供形態)のものであり、そこにはオープンソース版には含まれない独自の最適化が入っている。オープンソース版の利用者は、同じ方向の改善は期待できるが、同一の数値にはならない。
mem0 の README(2026 年 9 月 23 日参照。筆者訳)
つまり、宣伝されている数値は有料版のものです。別の会社が再現した結果はあとの節に書きます。評価用のコードそのものは公開されていて、誰でも再現を試せます。
上書きしない設計は、古い記録がそのまま残るということでもあります。Graphiti と逆の思想なので、扱う情報が変わりやすいなら向きません。
supermemory は、製品に組み込む前提なら扱いやすい
TypeScript で書かれています。リポジトリには Cloudflare 上で動かすための設定ファイルが入っており、手元だけで完結させることもできます。ライセンスが MIT なので、6 種の中では組み込みの制約が最も緩いものです。自社のサービスに記憶の機能を載せたい、という場合の候補になります。
逆に、社内のチーム共有という今回の目的では、cognee や Graphiti ほど説明が噛み合いません。README の重心が記憶を呼び出す API の方にあり、チームの知識をためる用途の記述は多くありません。
basic-memory は、ファイルが手元に残るのが利点で、共有は有料
記録を Markdown ファイルとして手元に置き、人も AI も同じファイルを読み書きします。Obsidian などのメモアプリと併用できます。サーバーを立てる必要はなく、検索用の索引が手元のファイルとして作られるだけです。何が保存されているかをそのまま目で見られるのは、6 種の中でこれだけです。
ただし今回の目的には引っかかる点があります。チーム共有は 1 人あたり月 15 ドルの有料クラウド機能で、無料の部分は個人のファイルに閉じます。ライセンスも AGPL-3.0 です。社内で完結させるなら問題ありませんが、顧客に提供するサービスへ組み込む場合は確認が要ります。
設計として良いのは、各機能に「読み取り専用」「元に戻せない」といった性質の印が付いている点です。エージェントが手探りで試して無駄な処理を増やすのを防ぐ工夫です。
Letta はスター数で選ぶと古い方を見ることになる
エージェント自身が自分の記憶を書き換える、という考え方の基盤です。MemGPT という名前で知られていました。ほかの 5 つと違い、既存のエージェントに足すメモリ層ではなく、エージェントそのものです。
注意点があります。2 万を超えるスターが付いているリポジトリは、すでに開発の場ではありません。README に「現在のソースは別のリポジトリにある」「archive ブランチに退役した旧サーバーがある」と書かれています。スター数だけを見て選ぶと、更新の止まった方を読むことになります。
公表されている数値を判断に使わない方がよい
この分野には共通の試験がいくつかあります。長い会話の履歴から事実を取り出せるかを見る LongMemEval、100 万から 1000 万トークンの規模で事実の追跡や矛盾の解消を見る BEAM といったものです。各社がこれらの点数を掲げています。
その点数が、別の環境で回すと下がります。Graphiti を作っている Zep は、mem0 が LoCoMo という試験で公表した数値を自前の実行環境で再現し、mem0 の最良の設定が約 68%、比較対象として置いた「全文をそのまま渡すだけの素朴な方式」が約 73% だったと報告しました。素朴な方式に負けた形です。報告したのが競合にあたる会社である点、そして対象が 2026 年 4 月以前の古い方式である点は、割り引いて読む必要があります。
出題の選び方、比べる相手、キャッシュの数え方を、すべて発表する側が決められるためです。自社で測り直す以外に確かめる方法はありません。
スター数も判断材料になりません
エージェント関連では、公開から半年たらずで 10 万を超えるスターが付くリポジトリが出ています。Claude Code 本体は 1 日あたり 255 個の増加ですが、それを上回る速さで伸びる新顔があります。伸び方そのものが、数字を疑う理由になります。
決める手順
4 つの判断軸を、上から順に当てはめます。
- 自社製品に組み込むなら、AGPL のものを外します。この時点で basic-memory が落ちます。
- チームで共有するのが目的なら、無料で共有サーバーを立てられるものだけを残します。basic-memory は前の段階で落ちており、Letta はメモリ層ではなくエージェント本体で開発場所も移っているため外します。残るのは mem0、Graphiti、cognee、supermemory の 4 種です。
- 出典をたどれるか、古い記録を無効にできるかで絞ります。両方を持つのは Graphiti、元の文章を返せて反応で順位が変わるのが cognee です。mem0 は上書きしない設計で古い記録が残り、supermemory は出典に関する記述が README にありません。担当や仕様がよく変わる領域なら Graphiti を、変わりにくい知識なら cognee を選びます。
- 省けたトークン数を記録する仕組みは 6 種のどれにも無いので、記録を作るときに「元の調査で何トークン読んだか」を一緒に残す運用を決めます。これが無いと半年後に続けるか止めるかを判断できません。
最後の 1 点が省かれやすく、そして一番効きます。記録するのは数値 1 つで、それさえあれば「この仕組みで何トークン分の調査を省けたか」を後から合計できます。コンテキストの管理は感覚で語られがちな領域なので、数えられる形にしておく価値があります。
はてなベースの場合
はてなベースでは、この記事で挙げた 4 点目まで備えた社内向けのメモリ基盤を自社で持っています。チームで共有する要約として記録を残し、その記録が実際に役立ったかの反応と、元の調査に使ったトークン数を一緒に貯める作りです。社内の案件で使っており、外部には公開していません。
同じような仕組みを社内に入れたい、あるいは今回挙げた OSS の選定や導入で迷っている、という場合はご相談ください。どれを選ぶかより、効果を測れる形で入れることの方が、後から効いてきます。
AI エージェントの社内導入をご支援します
「チームで Claude Code を使い始めたが、同じ調査が繰り返されている」「メモリ層を入れたいが、どれを選べばいいか判断がつかない」といった状態から、選定・導入・効果の測り方の設計までご一緒します。実際に動かして測った結果をもとに整理します。